#719 『リル・バック ストリートから世界へ』

昨年、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭で上映された『リル・バック―ストリートから世界へ―』が、今週末2021年8月20日(金)から劇場公開されます(映画祭上映時のタイトルは「リル・バック メンフィスの白鳥」)。

リル・バックは1988年生まれのダンサー。いろいろな点でオリジナルなのですが、まず面白いのが、その世の中へ知られ方。ちょっと古い言い方をすれば、まさしく「シンデレラ・ボーイ」なのです。

というのも、彼のオリジナリティ溢れるダンスが、たまたま世界的チェリストのヨーヨ-・マの目に留まり、彼の演奏にのせ、「白鳥」を踊っているところを、同じ集まりに居合わせた映画監督のスパイク・ジョーンズがスマホで撮影。

YouTubeに流すと、300万ビューを超える反響が。この映像がきっかけで、世界を舞台に活躍するようになったわけですから、ちょっとワクワクするような話です。

今回の映画では、そんなヨーヨー・マとのワンシーンをはじめ、リル・バックは、どんな環境で育まれた人なのか?――という彼の「これまで」が、彼をめぐる様々な人たちの証言と共に語られています。

ヨーヨー・マの演奏に合わせて踊るリル・バック

8歳でテネシー州メンフィスに越してきた彼は、仲間と共にダンスに夢中になります。彼のダンスは、“ジェーキン”というメンフィス発祥のストリート・ダンス。興味深いのは、この“ジェーキン”にクラシック・バレエが融合したこと。

リル・バック自身の願いで、彼は地元にある「ニュー・バレエ・アンサンブル」の門を叩きます。このバレエ団が素晴らしく、経済的に学費の払えない学生にも積極的にレッスンに迎え入れている、そういうバレエ団なのです。

そこに通い始めたリルの踊りの才能は、みるみる開花。映画の中にも映像が流れますが、自在な足首から生まれる、想像を超える自由でスムーズな動きが面白い。そして、ストリート・ダンスって勝手に「やんちゃ」なイメージがありましたが、リルのダンスには、不思議な品がある。世界の人たちを惹きつけたのは、そこも大きかったのではないでしょうか。

次回は本作を手掛けたルイ・ウォレカン監督にリモート・インタビュー。リル・バックを育んだメンフィスの街の話を中心にお届けします。お楽しみに!

文:多賀谷浩子

2021年8月20日から上映中 公式サイト:http://moviola.jp/LILBUC/