子どもの7人に1人が貧困状態にあるといわれる今の日本。平和な「平成」の影にある、声にならない子どもたちの声をすくいあげた映画『こどもしょくどう』が全国で上映されています。
日向寺監督のインタビュー第3回。今回は、子どもの視点から子ども食堂を描いたこの映画を、大人の視点から考えてみたいと思います。
『こどもしょくどう』を大人の視点から考える
―主人公ユウトの両親、食堂を切り盛りしている吉岡秀隆さんと常盤貴子さんもいいですね。
ご一緒させていただいて、とてもよかったです。ユウトには内的な葛藤があるとお話しましたが(前回のインタビューをご覧ください)、それは父親も同じだと思うんです。吉岡さんは、そういうことを表現するのがとても上手な役者さんなので。
―多くを語らないけれど、伝わるものがあると?
そうです。僕の中で、ユウトはドラマ『北の国から』の純くん(吉岡秀隆さんが子役時代から長年演じてきた役)のイメージだったんです。だから、ユウトのお父さんは誰がいいかと考えた時、そのまま吉岡さんにお願いしようと思いました。
―面白いですね。常盤さんも食堂のおばちゃん役も、自然でした。
常盤さんとは不思議なご縁があって、今回もお願いしている小堺ななさんというベテランのメイクさんがいるのですが、別の映画の撮影で常盤さんとご一緒された時に、たまたまロケ先に『爆心 長崎の空』(監督の過去作)のポスターが貼ってあったらしいんです。
―そうでしたか。
その時、ななさんが「この監督の映画はいいから、観た方がいいですよ」と常盤さんに勧めたそうなんです。その日がクランクアップだったそうなのですが、常盤さん、次の日に『爆心 長崎の空』を上映している京都まで行って、観てくださったそうなんですよ。
―お人柄が伝わってきます。
『爆心 長崎の空』もよかったので、と今回の映画も引き受けてくれたみたいです。そういうご縁もありますし、やはりキャラクターに合っていたので。「世話好きが、嫌みにならない感じ」が欲しかったんです。ご本人がおっしゃっていましたけど、関西育ちなんだそうです。関西の、そういう世話好きの感じがわかるというんですね。
―ちょっとアジア的というか、距離が近い感じですか?
ええ。台本を読んで、この役はその感覚だと思ったって。吉岡さんと常盤さんは、あれだけキャリアが長いのに、これが初共演なんですって。子どもが多い映画だから、大人だけの現場とは状況が違うってこともわかっていて、支えてくださって。いい方たちでした。
―映画を拝見していて、リアルだなと思ったのが、車上生活を送る姉妹ミチルとヒカルを、主人公のユウトが両親の営む食堂に連れてきた時の両親の反応なんです。困っている子どもがいるのなら、助けてあげたいと思いながらも、どこのお子さんか事情もわからぬまま勝手なことをしたら、迷惑なのではないか。そんな戸惑いから、ユウトの両親は、すぐに行動することができません。人様の家庭事情に口を出したら悪いのではないか。日本のどこにでもある配慮が、子どもをめぐる問題を複雑にしてしまうところがあるように思います。映画は、最終的にある決着がつきますが、いろいろお考えになられたのではないでしょうか?
物語のラストですよね。誰の行動から、ああいう展開になったのか。いくつかの可能性が考えられるように描いています。ただ、あれ以上、ミチルとヒカルがあのままだったら、「食べるものもなくて困っている子どもたちがいるのに、大人たちはなぜすぐに届けを出さないんだ」となるじゃないですか。
―そうですね。
でも、ユウトの両親がすぐに通報すると、ミチルやヒカルを厄介払いしたようにも見えかねない。そういう危険性もあるわけです。そういうことも考えながら、物語上の日数の経過を考えると、あのタイミングが、ギリギリのリアリティだと思いました。おっしゃるとおり、最初は父親もいたわけで、見ず知らずのお子さんだから、家庭の事情もわかりませんからね、難しいところだと思います。
―あと、出番は少ないものの、この映画で見逃してはいけないポイントが、ミチルとヒカルの両親だと思ったんです。特に、お母さん。石田ひかりさんが演じていらして、すごくいいお母さんに見える。「そういうことをしそうもない人がする」というキャスティングにされたのかなと思いました。
そうですね。あの家族は、特別な家族じゃないという風にしたかったんです。実際、貧困問題には、「貧困はループする」という問題があるんですね。貧困の親から貧困の子が生まれ、そこから抜け出せないという。
―はい。
でも、あの家族は、そういうことではなくて、とても幸せだった家族なんです。そういう家族にも、ミチルやヒカルの家庭のように、子どもたちを置き去りにせざるを得なくなる可能性もある。そのことを、貧困のループとは別の問題として描きたかったんです。
―一瞬しか出てこないのは?
観て下さる方に、「明日の自分たちかもしれない」と観てほしいと思いました。だから、最低限しか描いていないんです。こういうお父さんだからお母さんだから、家庭が崩壊したという風には見せたくなかったんです。
―お父さんをDragon Ashの降谷建志さんが演じています。
たまたまなのですが、降谷さんも石田さんも、子どもたちや貧困をめぐる問題にとても関心をお持ちだったんですよ。降谷さんはニュース番組を録画するぐらい、子ども食堂に関心を持たれていたそうですし、石田ひかりさんは現在、フードバンクの活動もされていて。そういうこともあって出演を決めてくださったのだと思います。
『こどもしょくどう』のインタビューは、次回が最終回です。どうぞお楽しみに!
5月17日~23日 船堀シネパル、6月1日~30日 CINEMA Chupki TABATA、6月15日~28日 横浜シネマ・ジャック&ベティほか全国にて公開