#772 黒の牛 蔦哲一朗監督 リー・カンションさんインタビュー vol.3

今回が3回目となる『黒の牛』インタビュー。

最終回は『黒の牛』とツァイ・ミンリャン監督作品との共通性について。長年、ツァイ監督の作品に出演してこられたリー・カンションさんは、どのように感じられたのでしょうか。

リーさん「ツァイ・ミンリャン監督の映画は、都会で生きる人間の孤独を描いた作品が多いですが、蔦監督の作品は大自然の中で描いた無の境地というふうに理解しています。

先程(前回をご覧ください)お話に出してくださったツァイ・ミンリャン監督の“Walker”シリーズ(日本では劇場未公開)と蔦監督の『黒の牛』を比べると、もちろんバックグラウンドは違いますが、やはり演じていて似通ったものを感じます。

それは真実を描いているということ、そして自然にありのままを描いているということです。生まれたばかりの赤ん坊のような純粋性と、まっさらな紙のように無垢なものを僕自身、感じました。

それは修行ということにつながると思うのです。修行することで心を落ち着かせて、このせわしない世界を生きていきたい、そんなふうに思います」

リーさん「今の時代、スピードがはやいですよね。AIの出現がそれを加速させているような時代に、蔦監督のような若い監督がフィルムを使って、それもモノクロームで映画を撮るというのは本当に勇気のある決断をされたと思います。

その結果、こんなにも芸術性の高い作品になって、今の時代に必要な、観た人に安らぎをもたらすような映画になったと思います。僕はとにかくこの映画がヒットするように応援したくて、最初から、その気持ちでこの映画に参加しました」

12月のプロモーション・イベントにも、1月の公開時にも来日されていたリーさん。海外在住の俳優さんの場合、公開時にだけ来日されるのが一般的なことを考えると、どれだけこの作品を応援されているかが伝わってきます。

リーさん「実は、ひとつ出演オファーがあったのですが、それをお断りして、今回、こちらに伺いました。そのぐらい僕は、この映画を応援したいのです。蔦監督はこれからも、こうしたアート映画の道を突き進まれると思いますが、それには辛いこともたくさんあると思います。だから、損してほしくないのです」

資金面などの難しいアート映画の制作。ツァイ・ミンリャン監督の近くで長年組まれてきたリーさんならではの言葉が響きます。

リーさん「この映画がヒットすれば、資金集めにそこまで苦労しなくても次回作を順調に撮れるようになりますから。こういう映画が今の時代に作られて、公開されるということが、とても重要だと思うんです。商業映画とはまた別の、映画の歴史の中にずっと残る映画だと思います」

そう云われて照れ笑いする蔦哲一朗監督。イベントの時におっしゃっていた(監督ご自身は)「アート映画というつもりで撮ってはいない」という言葉も印象に残ります。撮りたくて撮られた映画が、結果として、こういう形になったということなのでしょう。

そういう「狙って出てくるものではない」本物の瞬間に出会える作品。スクリーンに身をゆだねる喜びを味わわせてくれる作品という意味でも、映画館で観たい映画だなと思います。

自ら台湾に2度渡り、ツァイ・ミンリャン監督とリー・カンションさんに出演オファーをされたという蔦監督。今後もリーさんとのコラボレーションを考えておられるそうで、そちらも今から楽しみです。

取材・文:多賀谷浩子

『黒の牛』公開中。

公式サイト:https://alfazbetmovie.com/kuronoushi/

『黒の牛』上映用フィルムのクラウドファンディング

https://motion-gallery.net/projects/KURONOUSHI

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配給:alfazbet、ニコニコフィルム、ムーリンプロダクション