前回からお送りしている『オリビアと雲』、ドミニカ共和国出身のトマス・ピチャルド=エスパイヤ監督のインタビュー。
理屈ぬきに気持ちよく流れていくアニメーションと音の洪水に、心を奪われる本作。12人のアニメーターが描いたスタイルの異なるアニメーションが絶妙にコラージュされています。
監督は、それぞれのアニメーターに合わせ、別々のお題を出したそう。それに応えて上がってきた映像があまりにも素晴らしく、感動して「思わず、恋してしまいました」という瞬間がたくさんあったそうです。
そんな瞬間は、アニメーションだけではなかったよう。今回は、この映画の「声」のお話からスタートです。

ー監督のオファーに対して、「こんなに素敵な映像が上がってきた」の連続だったのではないかと、こちらの映画を観ていると思います。
トマス監督「そうですね。アニメーターもそうですが、声で出演してくれた人たちにも、そういうことがあったんですよ。ちょっと話してもいいですか?
主人公のひとり、オリビアが思いあまって叫ぶシーンがあるのですが、オリビア役の俳優さんがやってみたら、「これはなかなか難しいシーンだね」ということになったんです。
だったら今度は、アニメーターやみんなの声を合わせてみようと実際やってみたら、やっぱりトーンが違いすぎて、うまくいかなくて。求めている感情の高まりをどうしたら出せるかなと思っていたら、プロデューサーのアメリア(デル・マル・エルナンデス)が「私やってみたい」と志願してくれて(笑)。録音ブースでやってもらったら、わーっと叫んだ後、彼女は泣き出したんです。
そもそも彼女がこの映画のプロデューサーになってくれたのは、この作品にとても共鳴してくれたからなのですが、彼女自身がパートナーと経験した感情が、このシーンにつながって、声を出した瞬間、彼女の中に湧き出したらしくて。まさに、そういう感情とつながる部分が大事な映画なので、すばらしいプロフェッショナルだ!と思いました」
―登場人物の動きも予想外でユニークです。監督は、普段の日常生活でも、今の目の前の状況がシュールに展開していったら面白いなと空想したりするそうですが、今みたいなリモート取材の場はいかがですか。
トマス監督「そうですねえ……なんでしょうね(笑)。日本の皆さんの前に、別のzoomでインタビューを受けていたのですが、zoom画面には小さい画面がいっぱい出ていますよね。ずっと見ていると、それがわーっと大きくなったり、くっついて一緒になったりしたら面白いなと、そんな空想はたしかに浮かんできます。皆さんの顔を見ながら(笑)」

―プレス資料の監督インタビューに「この物語はドミニカ的な物語だから、ドミニカ的なアニメーションにしようと思った」と。それが12人のアニメーターの起用につながったそうですが、「ドミニカ的」というのはどんなことなのか興味があります。
トマス監督「ドミニカの映画産業はまだ成長過程なので、ヨーロッパや日本の映画をお手本に、地元の映画へと順応させる形で映画を作っています。
ただ、小津やクロサワの映画には、ドミニカの風土とはだいぶ違ったものを感じます。ドミニカの人たちというのは本当によく笑い、よく語り、騒がしい国民性ですから。だから、ヨーロッパの映画もそうですが、瞑想的な静かな映画を、そのままドミニカの映画に応用するのは難しいと思うのです。
この映画で僕がやりたいと思ったのは日々、感じているドミニカ的なもの……例えば、ビルもカラフルですし、家と家は重なり合っていて、街そのものがコラージュをしているよう。とっても騒がしいです(笑)。そういった要素もデザインに盛り込みました。また田舎の方に行くと虫が鳴いていたりして、そういう音もサウンドコラージュに入れ込んでいます。
他に特徴的なのは、話し方です。スペイン語圏の国はたくさんありますけれど、ドミニカのスペイン語は特徴的なので、メキシコやアルゼンチンの人にもわかりやすいように、ドミニカの映画ではスペイン語を万国共通のわかりやすいスペイン語にするのが一般的なのですが、僕はこの映画では、ドミニカの強いアクセントを生かしたかったのです。
だから、他のスペイン語圏の方がこの映画を観る時は字幕が必要かもしれません。けれども、それが実際のドミニカ。リアルな状況を反映したいという思いが、「ドミニカ的」というところに反映されています」

インタビューの終わりの時間が近づいた頃、監督から「僕からも一言いいですか?」
こちらのサイトは「考える高校生のためのサイト~Mammo tv」という現役高校生と元高校生の人たちに向けたウェブサイトが前身であることを最初にお伝えしたのですが、それを覚えていてくださったご様子。こんなお話を聞かせてくれました。
トマス監督「高校生のメディアということで、もうひとつお話したくて。僕がアニメーションを描きはじめたのは15歳頃でしたが、当時の僕は今よりシャイで自分の感情を表現するのがとても苦手でした。
でも、アニメーションを描くことで、そこから友だちができていったんです。今もこうして映画を1本作るたびに、過去の自分のそういう気持ちを思いだして、僕は人とつながりたいという思いがあって映画を作っているんだなと感じます。
高校生の人たちと、元高校生の人たちにそれをお伝えできたらうれしいです」
取材・文:多賀谷浩子
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