#771 黒の牛 蔦哲一朗監督 リー・カンションさんインタビュー vol.2

前回からお届けしている『黒の牛』のインタビュー。

研ぎ澄まされた静かさのモノクロームの映像世界に際立つ、人間の身体性。主演のリー・カンションさんは台湾の名匠ツァイ・ミンリャンの作品の中で、台詞よりもその表情と身体性で多くを物語ってきた俳優。


そんなリーさんと本作で共演しているのが『祖谷物語―おくのひと―』にも出演している田中泯さんや、ジャンルを超え、新たなダンスの地平を感じさせる作品を今も発表し続けているケイ・タケイさんといった身体表現の方々。

インタビュー2回目は、それについて伺ってみました。

蔦監督「『祖谷物語』もそうでしたが、台詞で何かを伝えるより、人間の身体が自然の中でどう存在するか。そういうことを意識的に描いているので、ある意味、自然と戦っているような存在感を出してくれることが一番、大事なところでした。なので、リーさんをはじめ、今回の作品では、そういう方々に出演をお願いしました。

泯さんは『祖谷物語』にも出ていただきましたが、身体性も表情も含め、台詞がなくても色々なことを観客に伝えてくれる稀有な存在だと思います。それはリーさんにも言えることで、リーさんの持っている空気感、ミステリアスな雰囲気というのは狙ってできるものではないですよね。

それはもちろんツァイ・ミンリャン監督とやってこられたことで養われたものだと思うのですが、今回、撮影していても本当に不思議な魅力を持つ方だなと感じました。でも、実際にお会いしたリーさんは、ツァイ・ミンリャンさんの映画を観ていた時はもっと寡黙な方かなと思っていましたが、すごく気さくでユニークな接しやすい方だなと思いました。

ケイさんは劇中の老婆役でダンサーの方を探していたのですが、なかなか見つからなくて。ようやくケイさんに辿り着いて、お会いしたら、イメージにピッタリでした。あの肉体の感じ、ケイさんのあの身体性は俳優さんが役作りでできるレベルではないと思いますから」

田中泯さんやケイさんとの共演について、リーさんは

リーさん「身体表現という点では泯さんともケイさんとも通じ合うものがありました。撮影現場では、もう言葉は必要ないという感じ。何を考えているか、今どうしたいと思っているか、なんとなく喋らなくてもわかるところがあって、他の俳優さんとはできない独特なコミュニケーションでした」

そもそもツァイ・ミンリャン監督の台詞のない長回しのシーンの撮影を重ねてきたリーさん。行者の袈裟を着て、世界の街を本当にゆっくりゆっくりと歩んでいく“Walker”シリーズ(日本では劇場未公開)は、リーさんの周りだけ違う空気が生まれる何とも心惹かれる作品です。その撮影について伺うと、

リーさん「行者の衣装が3キロぐらい、着付けるのに1時間ぐらいかかるのです。1日に8時間くらい撮るのですが、どのシーンも大体ワンシーンをワンカットで撮影しますから、20〜30分くらいはカメラを回し続けるわけで、かなり大変な撮影だと思います。

裸足で歩き続けますから、寒い街で撮った時は足が凍りそうになりますし、マレーシアで撮影した時は気温が50度くらいありますから、火傷の状態で水ぶくれができてしまうんですよ」

そういった経験を経て、本作のこちらのスチールのような圧巻の立ち姿に至るのでしょうか。誰もこんなふうには立てないように思います。

リーさん「それはね、多分あると思います」

どうしてそんなことができるのか、尊敬の念が募るばかり。

リーさん「今、聞いてくださった“Walker”シリーズの新作の撮影をして、その後『黒の牛』の撮影に入りましたが、世の中がコロナになりましたから、他の作品もあった関係で、6度ほど隔離されました。日本でも14日間の隔離期間を経て、ようやく撮影に入れたので、隔離ということも私の精神状態に影響したと思います。

ホテルで隔離されるということも、また修行ですから。心を落ち着けて、無の境地で、この作品に入れたのではないかと思います」

「無の境地」という言葉が、本作『黒の牛』と重なるよう。修行という印象的な言葉は、次回のリーさんのインタビューでも聞かれました。次回、最終回に続きます。

取材・文:多賀谷浩子

『黒の牛』公開中。

公式サイト:https://alfazbetmovie.com/kuronoushi/

『黒の牛』上映用フィルムのクラウドファンディング

https://motion-gallery.net/projects/KURONOUSHI

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配給:alfazbet、ニコニコフィルム、ムーリンプロダクション