#715 第21回東京フィルメックス

こちらのコラムは、2017年に幕を閉じたウェブサイト「~考える高校生のためのサイト~Mammo tv」で 2003年から 15年にわたって連載されたコラム「映画のある生活」がウェブサイトとして独立したものですが、実は記念すべき第1回のテーマが、2003年の東京フィルメックスでした。

振り返れば、いろいろな作品に出会い、いろいろな監督に取材し、こちらのサイトで皆さんにお届けしてきました。そんな東京フィルメックスが、21回目を迎える今年も開催されます。

今年は、どんな作品が上映され、どんな催しがあるのでしょうか。次ページで、触れていきたいと思います。

今年の新たな試みは、10月30日(金)~11月7日(土)まで、東京国際映画祭と会期を同じくして開催されること。フィルメックスの常連監督も登場する東京国際映画祭のオンライン・トークイベント(是枝裕和監督が発案の「アジア交流ラウンジ」)が実現したことも興味深いです。こちらについては後に触れたいと思います。

カンヌ、ベルリン、ヴェネツィア――世界の三大映画祭のことは、ニュースでも取り上げられ、日本でも広く知られています。しかしながら、映画祭の本来の役割については、皆さん、考えたことがあるでしょうか?

映画祭の機能は、新たな才能を見出し、育て、映画の新たな可能性を探ること。

日本にも、そういった本来の「映画祭」の役割を果たす場ができたら――という思いも込められ、2000年に産声をあげたフィルメックス。その願いが実現し、今となっては、すっかり定着した感があります。

例えば、若手作家を育てる「タレンツ・トーキョー」(以前の名称は「タレント・キャンパス」)では毎年、世界の映画祭で新作が待たれる監督を講師に迎え、世界各国の若い映画人たちが企画を持ち寄り、グランプリを受賞した監督には撮影費用が賞金として授与され、新たな作品が輩出されてきました。こちらの「タレンツ・トーキョー」、国境を越えた交流が難しい今年もオンラインで開催されます。

そして何といってもうれしいのは、三大映画祭で新作が待たれる監督たちの作品が逸早く楽しめること。今年もジャ・ジャンクー、ツァイ・ミンリャン、ホン・サンスなど、待望の新作が楽しめます。

ジャ・ジャンクーは、若くして三大映画祭で注目された監督。作品を観たことがない人にお勧めしたいのが長編2作目の『プラットホーム』。大きなスクリーンで、ゆったりと流れゆく物語に身を任せる幸福は、この監督の映画でなければ、味わえないものだと思います。

2018年の『帰れない二人』に至るまで、その作品は少しずつ変化を遂げていますが、今回上映される『海が青くなるまで泳ぐ』は文学者へのインタビューを通して、中国の70年間の変遷を考えるドキュメンタリー。急激な発展を遂げ、変わりゆく中国の「失っていくもの」に目を向け、愛おしく映画にしてきたジャ・ジャンクー監督の一貫した視点が感じられるのではないでしょうか。

    『海が青くなるまで泳ぐ』

ツァイ・ミンリャンも「ゆったり」を超えた、独特の「時間」が楽しめる監督。2013年の『郊遊 ピクニック』後、長編作家としては引退を公言していたツァイ監督。「もし私がまた長編を撮るとしたら、それは神様に撮るように言われた時だと思ってください」と話していましたが、多くのファンが待っていたその新作『日子』が今年、上映されます。

『郊遊』以降、長年、組んできた俳優のリー・カンションと撮影した僧侶のシリーズなんて、赤い袈裟を着たお坊さんが、街中など様々な場所を、ものすごくゆっくりと歩いて行く。ただ、それだけなのに目が離せません。

観ている人それぞれの中に生まれる物語の豊かさが楽しすぎて、私自身も大好きな監督。この面白さ、未体験の方にはぜひお勧めしたいです。きっとトリコになる人もいるのではないでしょうか。

        『日子』  

ホン・サンスは、韓国のゴダールなんて呼ばれることもありますが、フランス映画のように軽やかに、男女の恋を描く監督。これは即興に違いないと思うような自然な会話を、キャストに想を得て、ホン監督が撮影中にさらりと脚本を書き、それを現実のように、いとも自然に演じてしまう俳優とのコラボレーションで見せてしまう妙技。いつも監督自身を思わせる(!)ダメな男性が出てきて、ヒロインを困らせます。けれど不思議と笑ってしまうのも妙技。ホン監督、映画について真面目に語るのは無粋と思われているようで、観客を前にしたQ&Aで、のらりくらりと質問を交わす様子も妙技。なかなか味わい深い監督&作品なのです。新作のタイトルは『逃げた女』。きっとまたダメな男の人が……出てくるかどうかは映画祭で確かめてみてください。

       『逃げた女』

こちらの3人の監督のうち、ジャ・ジャンクー監督と、ツァイ・ミンリャン監督については、先に挙げた「アジア交流ラウンジ」で面白いトークイベントが予定されています。

ジャ・ジャンクー監督は11月7日に『スパイの妻』のヴェネツィア銀獅子賞も記憶に新しい黒沢清監督との対談が。そして、ツァイ・ミンリャンの対談相手は、女優の片桐はいりさん。こちらは11月6日に開催されます。他ではなかなか聴けない組み合わせ、ぜひサイトをチェックしてみてください。

他ではなかなか観られないと言えば、そんな貴重な作品を毎年、フィーチャーしてきた「特集上映」。今年は、エリア・スレイマン監督の特集です。2002年の『D.I.』ではイスラエルとパレスチナの問題を、驚くほど軽やかなユーモアで描き、カンヌ国際映画祭の審査員賞と批評家連盟賞をW受賞しました。多くの人が「怒り」で描く問題を、当事者という立場でありながら「笑い」で描ける懐の広さは、今の世界にとっても、とても大切なもののような気がします。

        『D.I. 』

日本で観られるのがとても貴重なデビュー作から、最新作『天国にちがいない』まで全4本が上映され、7日のクロージング上映では、スレイマン監督とのリモートQ&Aも予定されています。

何かと考えることの多かった今年。今の時代を感じながら映画に凝縮させる名監督たちの作品を通して、改めて私たちの「今」に思いを馳せてみませんか?

東京フィルメックス 公式サイト:https://filmex.jp/2020/

アジア交流ラウンジ 公式サイト:https://jfac.jp/culture/events/e-tiff-2020-asia-lounge/