#759 第25回 東京フィルメックス リポート~『Mongrel 白衣蒼狗』チャン・ウエイリャン監督、イン・ヨウチャオ共同監督Q&A~

今年も11月23日から12月1日まで、来年、閉館する歴史ある映画館、丸の内TOEIを拠点に開催された第25回東京フィルメックス。コンペティション作品の中で印象に残ったのが、スペシャル・メンションの台湾・シンガポール・フランス合作の映画『Mongrel 白衣蒼狗』でした。

台湾の山間部の村で、介護職でなんとか暮らしている不法移民の青年を主人公にした作品なのですが、そう聞くと観ているのが辛くなるような作品を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。実際にこちらの作品を観て印象的だったのは、日常を映し出す豊かなまなざし、そして温かみの伴う映像。終始、スクリーンに惹きつけられる独特の映画的な魅力を持っている作品なのです。

プロデュースにホウ・シャオシェン監督が名を連ねていますが、チャン・ウエイリャン監督はホウ・シャオシェン監督の映画に影響を受けているそうです。シンガポールの監督が、なぜ台湾を舞台に映画を撮ることになったのかという経緯も含め、映画の上映後のQ&Aで興味深いお話が伺えたので、今回は「フィルメックス・リポート」と題して、その模様を皆さんとシェアできたらと思います。

まずは、フィルメックスのディレクター、神谷さんからの質問です。

―金葉賞で新人監督賞を受賞したばかりですね。以前から、こうしたテーマで短編を撮ってきたチャン・ウエイリャン監督の長編デビュー作ですが、主人公はタイの人で、東南アジアからの不法移民たちが台湾の山間部で介護ビジネスに従事する様子が描かれています。シンガポール出身のチャン・ウエイリャン監督が、どういった経緯でこの映画を撮るに至ったのでしょうか。

ウエイリャンさん:

僕はシンガポール人で、シンガポールの大学でジャーナリズムを専攻していました。その頃、アジア映画を観る機会があって、中でも惹かれたのが台湾ニューウェイブの映画でした。それで台湾に行って、いろいろ観てみようと思ったんです。

誰も知らない状況で行きましたが、友人ができたのがたまたま演技や映画に関わる人たちで、とてもよい関係を築けて。ただ、僕はビザがなかったので、滞在猶予は30日。ギリギリまでいて、一番安いチケットで香港まで行って、日帰りで戻ってくるような生活を送っていました。

VISAがないということで入管に赴くと、東南アジアの人たちに会うわけです。インドネシア、フィリピン、ベトナムから来た労働者で、僕とは違う経験をしていて。その人たちの話を聴いていたら、怒りがこみあげてきたんです。

シンガポールにいた時より、映画づくりのクリエイティブな仲間と出会えて、充実した毎日を送っていましたが、仲間と楽しく映画を作るだけではなくて、東南アジアの彼らの怒りに触れた時に映画ができることがもっとあるのでは、という気持ちになりました。

僕自身、台湾にいると、シンガポールの家族が病気になっても、何もできないんですね。そういう体験があったのと、台湾に10年いる中で見えてきたのが、介護職の人たちの存在。社会の表面からは見えない仕事をする人たちのことでした。同時に、台湾の山間部には、介護を必要とする人たちがいることもわかって、その双方を描けたらと思ったんです。それには、これまで描いてきた短編よりも大きな長編で描く必要があると思い、短編でもそういったテーマを撮ってきましたが、この作品が長編デビュー作になりました。

-ウエイリャンさんと共同監督のイン・ヨウチャオさんはどのように役割分担されていますか。

ヨウチャオさん:

私がやりたくないことを彼がやって、彼がやりたくないことを全部、私が担当しました(笑)。

ウエイリャンさん:

そうですね。ヨウチャオさんは無口なので、ちょっと補足すると(笑)、彼女の存在が映画にやさしさ、温かみを与えてくれたと思います。僕がひとりで撮ったら、怒りや悲しみを描く中でもっと容赦ない映画になったのではないかと。彼女のおかげでバランスがとれたと思います。

ここで観客の皆さんからの質問が。

―台湾の社会の暗部を描いた作品であると同時に美しい作品で、例えば、スタンダードサイズの画面の中心に常に登場人物を置いていることや、青みがかった黒の映像が印象に残りました。そういった映像について、どんな工夫があったのでしょう。またフィルムノワールのような印象を受けたのですが、参考にした作品はありますか?

ウエイリャンさん:

4:3のスタンダードサイズにしたのは、短編の頃からやってきたことですが、経済的な理由です。短編を撮る時に助成金を得られなかったので、4:3で画面をタイトにすると、背景のセットを作り込む必要がないので。あとは、僕は素人の俳優を起用することが多いので、画面がタイトだと、観客のフォーカスがそこに集中しやすく、感情移入しやすいという理由もあります。10年ほど映画を撮っていますが、何が人に訴えかけるのかを考えた時に、この作品に出てくる人たちは皆が「中間」にいて、それぞれ板挟みになっている。そこにはそれぞれの事情があるだけで、悪い人は誰もいない。そのことを表すにも適したサイズだと思いました。

そして、色味ですが、温かみを出すことを考えました。外は寒いけれど、家の中は温かい。家の中は年季が入っていて、ほのかに温かい雰囲気で、外の寒さとの違いを際立てたいと思いました。

ノワールの雰囲気も示唆していますが、ホラー映画とも言えるかもしれません。貧困と病気はもっとも恐ろしいものだから。影響を受けた作品は、やはり若い頃に観た台湾ニューウェイブのホウ・シャオシェン、エドワード・ヤン、ツァイ・ミンリャンです。ただ、短編を撮る時には、小津映画を初めて観た時の感覚を忘れないでいたいと思っていました。登場人物たちがまっすぐに見つめる、小津映画の感じを念頭に置いて、演出や小道具に敬意を感じています。あとはワン・ビンのドキュメンタリー映画や、ペドロ・コスタの『ヴァンダの部屋』にも衝撃を受けました。ヨウチャオさんも、僕と同じ映画を観ていると思います。

―中国語タイトルの意味を教えてください。

ウエイリャンさん:

まず、最初に英語の『Mongrel(雑種犬)』というタイトルをつけました。雑種だから強い、ひとりでも群れでも生きていける。そして、山間部の人は番犬のように飼うことも多いけれど、扱いが悪ければいなくなってしまう。主人公はタイ人だけれど台湾にいて、そういう意味で「中間」にいる存在です。そして、東南アジアの労働者と台湾のボスの「中間」に存在しています。この映画を撮る側の僕らにしても、僕はシンガポール、ヨウチャオは台湾出身ということで、私たちはどこかで皆が「中間」に、雑種のように何かと何かが混ざったところにいるように感じるので。

中国語のタイトルですが、「白衣」というのは看護師のようなケアする立場の人のこと。「蒼狗」は野良犬という意味。その二つをつなげると、詩的な印象があるように感じて。杜甫の詩に、この四文字が出てくるんです。移ろいやすい人生を象徴しているのですが、主人公が家の中にいる時に、鍵をかけられてしまう場面がありましたよね。あそこは実際、介護職の人を信用していない家の人が同じことをした出来事があったんです。撮影中、近くで心臓発作を起こした方がいたのですが、山の中なので、救急隊が来た時は間に合わなかった、そういった出来事から、中国語タイトルの移ろいやすい、儚いという言葉が合うのではないかと思いました。

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ホウ・シャオシェン監督のスピリットが、こうして国を超え、若い監督に受け継がれていることを感じさせてくれたお二人。Q&Aの時の落ち着いた雰囲気も素敵でした。カンヌ国際映画祭でも評価されましたが、今後が楽しみな監督に出会えて、うれしい今年のフィルメックスでした。

11月23日~12月1日まで

丸の内TOEI、ヒューマントラストシネマ有楽町にて開催

公式サイト:https://filmex.jp