10月31日から開催される東京国際映画祭。海外ゲストの来日が難しい中、今年は様々な工夫が見られます。コロナの時代に対応し、どんな変化が見られるのでしょうか。次のページで見ていきたいと思います。
最も大きな変化は、コンペティション部門を今年は実施しないということ。例年、上映作品の中から受賞作が選ばれるコンペティション要素のある部門としては、
★映画祭の顔である「コンペティション」
★アジアの注目作を集めた「アジアの未来」
★日本映画の新たな才能に焦点を当てる「日本映画スプラッシュ」
という3部門が設けられてきましたが、今年はこれらの3部門を「TOKYOプレミア2020」としてひとつにまとめ、監督のキャリアや製作国に関係なく、全32作品が上映されます。
そして、もうひとつの大きな変化がウェブ・イベントの多さ。これは東京フィルメックスも同じですが、例年、上映後に行われていたゲストとのQ&Aがオンラインで行われるほか、オンライン・トークイベントも行われ、その中で特に注目したいのが、前回もご紹介した「アジア交流ラウンジ」です。
こちらは国際交流基金アジアセンターと東京国際映画祭の企画で、発案は『万引き家族』も記憶に新しい是枝裕和監督。是枝監督といえば、来年、『パラサイト』のソン・ガンホら、魅力的な韓国の俳優たちと韓国で『ブローカー』(仮)を撮影することも話題ですが、今後ますますアジアの映画人どうしの連携が期待される中、その交流の場として、魅力的な組み合わせの対談が実現しました。
開催は11月1~8日までの毎日(7日以外は夜6時30分スタート/登録料無料)。その中で、注目したい映画監督を見ていきたいと思います。
まず、1日の韓国のキム・ボラ監督×日本の女優、橋本愛さん。橋本愛さんについては皆さんご存じだと思いますが、キム・ボラ監督については、知らない方も多いかもしれません。今年、日本でも公開された『はちどり』で長編長編デビューした1981年生まれの女性です。
今年は、小説も話題になった『1980年生まれ、キム・ジヨン』も公開されましたが、キム・ボラ監督は、この小説の主人公キム・ジヨンと同世代。『1980~』も、主人公の少女時代が振り返られますが、『はちどり』もキム・ボラ監督が自らの少女時代を振り返りながら描いた、90年代の韓国社会と中学2年生の物語。
大人の理不尽や家族の問題……よくあるのに、本人にとっては息が詰まるほど深刻な中2の現実。少女の目に映る世界のみずみずしさと残酷さを繊細に描き、誰もが知る「あの頃」の記憶と、当時の韓国社会特有の空気を絶妙に閉じ込め、世界で50を超える映画賞を受賞しました。
2日目のホアン・シー監督×是枝裕和監督。こちらも気になる組み合わせ。というのも、ホアン・シー監督は、台湾の名匠ホウ・シャオシェン監督の作品に長年携わり、2017年の『台北暮色』で長編デビューした監督。是枝監督自身もホウ監督の作品にたびたび言及されていますが、是枝作品に惹かれる人の中には、ホアン監督、そしてホウ監督の映画に惹かれる人も多いのではないでしょうか。二人の間の共通する何かが引き出されそうな楽しみな回です。
3日のアピチャッポン・ウィーラセタクン監督は、『ブリスフリー・ユアーズ』(02)や『トロピカル・マラディー』(04)など、まったく新しい映画の形で評価された監督。瑞々しい自然音に包まれながら、これまでに体験したことのない没入感で、私たち人間の中の「自然」を五感全体で思い出させるような作風は唯一無二。インスタレーション作品で、現代アートの世界でも活躍しています。そんなアピチャッポン監督とトークを繰り広げるのは、『国道20号線』(07)『サウダージ』(11)で注目された冨田克也監督と、冨田監督と共に映画制作集団・空族で活動してきた相澤虎之助監督。どんな話が聞かれるのでしょうか。
5日に登場するモーリー・スリヤ監督は、2017年の『マルリナの明日』がフィルメックスの最優秀作品賞に輝いたことも記憶に新しい監督。こちらの作品はカンヌの監督週間でも上映され、アカデミー賞・外国語映画賞のインドネシア代表作品にも選ばれました。若い女性監督が哀愁漂う西部劇のスタイルで描いた闘うヒロインの物語が鮮烈でしたが、そんなスリヤ監督が、『かぞくのくに』(12)のヤン・ヨンヒ監督と語り合います。
そして前回のフィルメックスで触れたツァイ・ミンリャン監督とジャ・ジャンクー監督。6日はツァイ・ミンリャン監督×片桐はいりさんという、ちょっと意外な組み合わせ。なぜ、このお二人なのか気になります。そして、7日はジャ・ジャンク―監督×黒沢清監督。こちらも、映画の作風から考えると、ちょっと意外な組み合わせ。なかなか他では聴けないお話が聴けそうです。
さて、今年の東京国際映画祭は前述の「TOKYOプレミア2020」のほか、「ワールド・フォーカス」や「JAPAN NOW」など例年どおりの部門の上映も行われます。「JAPAN NOW」は、深田晃司監督の特集。カンヌ国際映画祭のある視点部門で審査員賞を受賞した『淵に立つ』(16)をはじめ、今の社会を鋭く見つめ続ける深田晃司監督の作品にあらためて向き合ってみてはいかがでしょうか。
「ワールド・フォーカス」は世界の映画祭で注目された映画が楽しめる部門ですが、新作のほかに注目したいのが『ムクシン』のデジタル4K修正版の上映。こちらはヤスミン・アハマハマドというマレーシア出身の監督の2006年の作品です。
ヤスミン監督はCMディレクターとしてキャリアを築いてきた監督。さまざまな民族が共存するマレーシアで、民族の壁を越え、心を通わせる子どもたちを描いた作品は、CM時代も、映画としても、一貫した強い信念と人間愛で、多くの人の心を動かし、日本でも東京国際映画祭でたびたび上映され、支持されてきました。
ヤスミン監督は2009年に急逝されましたが、民族の壁を越え、心でつながろうとするヤスミン監督の思いは、今の時代、さらに大切になってきているように思います。出演した二人の女優を迎えたトークイベントも予定されているので、ぜひ注目してみてください。
フィジカルとオンライン、両方から楽しめる今年の東京国際映画祭。オンラインを活用した映画祭のあり方が、来年以降にどう広がりや定着を見せるのか。そこにも注目していきたいと思います。
第33回東京国際映画祭 公式サイト:https://2020.tiff-jp.net/ja/
アジア交流ラウンジ 公式サイト:https://jfac.jp/culture/events/e-tiff-2020-asia-lounge/