#779 『億万長者の不都合な終末』ガルデル・ガステル・ウルティア監督インタビュー

6月19日(金)から公開される映画『億万長者の不都合な終末』は、『プラットホーム』で階級社会のパラドクスをブラックに描いたガルデル・カステル・ウルティア監督の最新作。

主人公は上昇志向の強い配信プラットフォームのプロデューサー、ローラ。家庭を省みず、出世のためなら手段を選ばない彼女が直面したのは、超富裕層だけが感染するという「リッチ・インフルエンザ」の蔓延。彼女の周囲のメガリッチ層が次々と感染していく中、サバイヴする彼女のたどり着いた結末とは――。

ガルデル・ガステル・ウルティア監督にお話を伺いました。

主演のメアリー・エリザベス・ウィンステッドに演出するガルデル・ガステル・ウルティア監督(左)

ー「プラットホーム」も階級社会をブラックに描いた作品でしたが、そういう意味では今回の作品にも共通するところがありますね。

そうですね。『プラットホーム』で描いたのは一夜にしてリッチになったり、転落したり、身を置く階級が昨日と今日で大きく変化する世界。違う階層で目覚めたら、あなたはどう思いますか? と問いかけたかったんです。

『億万長者~』は、あなたはメガリッチな富裕層ですか? ということですね。この映画で描いた「リッチ・インフルエンザ」はもちろんフィクションですが、描かれている社会のパラドクスに直面しながら、みなさんそれぞれの答えを探していただけたらと思いました。

ーパンデミック以降、世の中の価値観が大きく変わってきているのを感じます。それについてはいかがですか?

すごく変わったと思います。いろいろな変化があると思うのですが、僕がまず気になるのは、5年前よりメガリッチ層が増えているということ。ほぼ全ての国において富の分配がうまく行われなくなってきているのではないかと。富がメガリッチ層に一極集中して、多くの国でその状況が見受けられるようになってきているように思います。

社会的な視点で言えば、富の分配が公正に行われるべきだと思うのですが、個人的なことを言えば、もっとお金が欲しいと思うところもあって(笑)、その間で板挟みになっている。そういう思いを抱えているのはきっと僕だけではないのではないかと……。

つまり問題は何かと云えば、セオリーの上では「みんな平等であれ」と多くの人がわかっているのに、問題を覆すような方法が現実ではなかなか見つけられていないこと。だから、自分で動き出さないといけない、ということが言いたいのです。

この映画の中では、なかなかどぎついメガリッチ層が描かれていますが、僕は何もその人たちのことが憎くて描いているわけではないです(笑)。この映画を鏡に、自分はどうなのだろうと考えるきっかけにしてもらえたら、と思います。

主人公ローラはストリーミング・プラットフォームの重役プロデューサー

ー主人公のローラは、なかなかハードな人物です。

そこは意識したところです。観客に共感してもらえる人物像を描くのは、そんなに難しいことではないのですが、この映画ではそうでない人物を描きたいと思いました。ローラは成功するためには周りの全てを踏み倒していくような人ですから。

ーそんなローラが、予想外の状況からメガリッチな富裕層の仲間入りをしてしまい、リッチ・インフルエンザの危機にさらされるという設定はもちろんフィクションですが、パンデミックの描写やローラが母親と娘との関係に悩んでいること、世界中の人たちが共感するような悩みが描かれていて、そこにリアリティがあるのを感じました。

この映画はフィクションとして、社会の中の持てる者と持たざる者を描いていますけれど、その中で描きたかったのは、人と人の関係性なんです。特に、家族間のコミュニケーションの欠如。それは僕ら世代だけの問題ではないと思うんですね。

僕の親はもう亡くなっていますが、娘も妻もいて、やっぱりコミュニケーションの難しさを感じています(笑)。同じように悩んでいる人も多いと思うので、そこもやはり観客の皆さんに答えを見つけてほしいと思いました。

ーところで、ローラ・パーマーという名前が出てくるのは、『ツイン・ピークス』の重要人物と同じ名前ですが、監督はデヴィッド・リンチがお好きなんですか?

脚本のダビド(・デソーラ)や僕は脚本を考えている時に、イタズラっぽい遊びを色々していて(笑)。ローラ・パーマーもそのひとつです。ペドロ・リベロも含め、この映画の脚本を書いている仲間はみんなデヴィッド・リンチが好きなので。

ー監督は「プラットホーム」がデビュー作ですが、それ以前のこと、差し支えのない範囲で伺えますか?

元々は映画を勉強していたわけではなく、大学で国際経営学を専攻していました。その後、ドイツに1年いて、英語を勉強するためにロンドンに行って、そこで出会った人がたまたま映画好きだったんです。

僕も映画は幼い頃から好きでしたが、バスク州の小さな村で育ちましたから、映画を撮るなんて夢のような話だと思っていて。ロンドンで出会った人に触発されて、マドリードの映画学校に入り直しました。

3年コースで、1年目の最後に賞をいただいて、そのあとは広告の仕事でコマーシャル映像を作っていました。デビュー作の「プラットホーム」を撮ろうと思った時は、予算が足りなくて大変でしたが、ようやく撮ることができて今回が2作目です。

影響を受けた映画はたくさんあります。古くは『ドン・キホーテ』、ブニュエルの『皆殺しの天使』、スコセッシの『タクシー・ドライバー』も好きでしたし、クロサワの『羅生門』、日本の作品ならドラゴンボールまで、好きな映画は知らないうちに自分に沁みこんで、今回の映画にも影響しているのではないかと。映画のおかげで、今は生活できています。ちなみに、脚本のペドロは黒澤明監督が大好きで、息子にアキラという名前をつけたんですよ。

ー大学で経営学を専攻されていたそうですが、世の中を見るときに経済のシステムを通して見る傾向がおありなのかなと。だから、こういう物語を思いつかれるのかなと思いました。

政治でも何でも、全ては富に関わってくると思っています。今の地政学を見ていても皆、富の奪い合いになっているような気がするので。

ーこの映画は、資本主義に対しての疑問も投げかけていますが、世界の国々にはたくさんの税金を徴収する代わりに高福祉が約束された社会もあれば、最近では日本でも「ベーシック・インカム」という言葉がニュースでも聞かれるようになったり、今、いろいろな人が考えているテーマだなと思います。よろしければ、監督のお考えを伺えますか?

僕が常に関心があるのは、どうしたら富の分配が公正に行われるのかということ。どれだけ脆いシステムの中に自分たちがいるのか、それについて考えてもらえたらと思います。富の分配が公正に行われるには、国の政策が不可欠。国家が主導して累進課税にするのが一番なのではないかと僕は考えています。

ー今日はありがとうございました。メガリッチな富裕層が身近にいるわけではないので、今回の映画も監督のお話もなんだか刺激的でした。

そうでしたか(笑)。富の分配が公正に行われるには……と考えることは、自分たちが今の世の中でどれだけ脆いシステムの中にいるかを考えることでもあると思うのです。この映画が考えるきっかけになれば、うれしく思います。

6月19日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開

公式サイト:映画『億万長者の不都合な終末』公式サイト

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