スクリーンにたびたび映し出される、アイルランドの海と土の独特の色彩。
この抑えた色彩になぜか惹かれるという方、
そんなアイルランドを舞台に、地域になじんだ「自分たちの歌」を歌う人々の様子を、ひとりひとり大切に集めたドキュメンタリー『ケルト・ユートピア』が公開されています。
ひとりの女性がこう言います。
「この国の曲はやたらと哀しい曲が多いのよ。そこにしか、
今、フォーク・
はじめに出てくるのは、若い女の子。地元の子が歌うということで、町のみんなが応援に駆けつけたという温かなエピソードもいい。何より、女の子が歌う様子がいいのです。聴いている友だちも、とてもうれしそう。
このあとの人たちにも、ずっと続いて、それが面白いのですが、民謡みたいな独特の節回しが魅力的です。

そのあと出てくる男性は、今の日本の俳優さんだと大泉洋さんでしょうか、ちょっとぼやいたりすると妙に面白く響くという……ぼやき芸のようなフォークソング。ギターに合わせて、なんとも味わい深い。
つらい日常を紛らわせるための音楽というのは、いにしえの時代から、あらゆる地域で歌われてきたわけですが、音楽ビジネスとしてパッケージ化(今は配信ですが)されるわけではない、生活の中の歌の力を感じます。
この男性が窓に腰掛けて歌っていると、

味わい深いパブで歌う、若者のフォーク3人組も新鮮。こちらの映画、基本的に出てくる人たちの発言が自由なのが面白い。本音の力です。
「フォーク・ミュージックというと、スーツを着て歌う保守的なイメージがあったけれど誤解だよ」
スーツを着て歌う……日本のフォークのイメージとはまたちょっと違うところも面白い。
「C M音楽なら無難にフォークにしておけ、みたいな風潮があるけれど、フォークには毒があるし、怖いものでもあるんだよ」
興味深いフォークの話が、そこから掘り下げられていきます。
こちらの映画、ひとりで聴かせてくれる人、グループの人……実にさまざまな人が登場する中、きっと観た人たち誰もの記憶にくっきりと残るのが、「おいぼれじじい、歌います」
「おいぼれじじい」というのは歌の名前。長年連れ添った奥さんが、だんなさんの文句を言っている、行ってみれば、ほぼ悪口の歌詞なのですが、それを小さな男の子が一生懸命に歌っているのが、なんともかわいらしい。昔から生活になじんでいる、みんなが知っている歌には、なんともいえない説得力があります。

やがて映画は、音楽の楽しさから少しずつ、この土地が抱える問題の方へ視点を移していきます。
アイルランド語をなぜ話さないの? と聞かれた若者が「1921年以降、
とはいえ、政治的にとがった発言をするというよりは、今の若い人たちの感覚で、自分たちの文化を消化しようとする姿勢が印象に残ります。それは政治的な問題についてもそう。
フォークソングを掘り下げながら、その土地の人たちみんなが知る、アイルランドの歴史の暗面にも触れていきますが、政治的な問題についても、穏やかな口調で、ある男性がこう言います。
「あっちも、こっちも、どっちも田舎者さ」
争うというのは、もう今の時代の気分じゃないんだ、という発言。共感する方も多いのではないでしょうか。
この映画に登場する人たち、それは大人も、子どもたちもですが、アイルランドがこれまで抱えてきた問題を把握しつつ、それを平和的に考えていこうとする前向きな姿勢が心に残ります。
地域に根差した音楽を考えることは、その土地独自のカルチャー、ひいてはそこで暮らす人たちの根っこを考えることにつながる。「私たちの歌」が、人間的な温かなものをじんわりと伝えてくれる映画、あなたはどう感じるでしょうか。
(文:多賀谷浩子)
公開中。公式サイト:映画『ケルト・ユートピア』公式サイト
