主人公は、父と同じ宇宙飛行士の道を選んだ男。しかし、父は宇宙に探査に出てから16年、太陽系のはるか彼方、海王星で行方不明になってしまう――そんな父の謎を追い、地球から43億キロ離れた宇宙の果てにやってきた主人公が見つけたものとは――。
プロデューサーとしての「目」も評価の高いブラッド・ピットが自らプロデューサーを務め、初の宇宙飛行士役で主演している本作。
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』に続き、年齢を経た今だからこそ滲み出る、味わい深さを感じさせるブラッド・ピットが来日。宇宙にちなみ、毛利衛さんが館長を務める科学未来館を会場に、記者会見が行われました。
「温かな歓迎をありがとう。東京に来られてうれしいです」と開口一番にあいさつしたブラッド・ピット。科学未来館のシンボル「ジオコスモス」の周りをゆっくり回って、プレスの前に登場しました。
映画を観て、まず魅了されるのがリアリティのある宇宙の描写。まるで宇宙空間にいるような感覚になります。
「これは監督と撮影監督の考えですが、あまりCGに頼らずに、できるだけ昔ながらのやり方で撮りたいと。レンズの中でいかにリアリティを出すかということで、オプティカルやレンズのフレア、月の暗闇をレンズで実際に撮って、アナログとCGをブレンドした撮り方にしました。臨場感のある体感のある映像になったと思います」
そもそも、宇宙を舞台にした作品を描くことになったのには、どんな経緯があったのでしょうか。
「宇宙を舞台にした映画にこれまで挑戦しなかったのは、すでに優れた作品がたくさんあるから。描くなら、このジャンルに貢献できるような新しい挑戦をしたいと思いました。長年の友人でもある監督のジェームズ・グレイが、まさにそういう企画を持ってきてくれたんです」
そんな挑戦とともに、俳優としての挑戦は、初の宇宙飛行士役というところでしょう。やはり訓練は大変だったようです。
「ピーターパンのように吊されるシーンも多くて、宇宙服を着ているから、結構重くて、結構大変でした(笑)。くるくる回されて、上に行ったり下に行ったり、どこまで吐かずにいられるか、これ以上やったら無理だというところまでテストするんです」
この物語が胸を打つのは、宇宙を舞台にしながら、スペースものに終始せず、ひとりの男の心の旅が描かれているところなのではないでしょうか。多くの人が抱える葛藤を、宇宙空間を舞台に描いたことについては、
「ジェームズ・グレイが描いたこの物語は、非常に大きなセットで、壮大な宇宙空間を舞台にしていますが、ひとりの男の葛藤、オデュッセイアのような自分を見つける旅なんです。
宇宙の深淵は、人の抱える謎を象徴していると思うんです。僕の演じたロイという男は本当に人生がうまくいっていなくて、自分の存在価値を見つけられずにいる。そんな彼が銀河系のいちばん遠いところまでいって、自分と向き合わざるを得なくなる。それまで押し殺してきた喪失感や後悔、自分への疑いと対面することになるんです」
そして、こう続けます。
「やはり映画の魅力は、そうやって人間のいろいろな葛藤に光を当てられること。人間のあらゆる側面を描き出すことができて、悲劇でもコメディでもそうだけれど、自分たちの存在を笑い飛ばしたり、見つめ直すことができる。それが映画の持つ本来の力だと思うし、僕はそこに惹かれます」
会見中、「ここは本当に居心地がいいね。最高だよ」と科学未来館のシンボル、ジオコスモスをバックに、質疑に答えていたブラッド・ピット。後半、ゲストに宇宙飛行士の毛利衛さんと山崎直子さんが登壇すると、「すごい。皆さん、本物ですよ」。
ブラッド・ピットからの逆質問で、宇宙から地球を見た時の「気持ち」を聞かれたお二人の答えが素敵でした。せっかくなので、フルでお届けしたいと想います。
ずは毛利衛さんから。
「わたくしが日本化学未来館の館長をしているのは、いまブラッドさんが言ってくださった感覚(「宇宙に実際に行った人は少ないですが、そのお二人から見た地球の感想や、その時の気持ちを聞かせてください」という質問でした)を大事にして、それをミッションだと思っているからです。
科学技術が宇宙に行くことを可能にしています。しかし同時に、科学技術だけでは私たちが住んでいる大事な地球を守ることはできない。しかし、外から地球を見ると、誰が見ても美しいのです。その気持ちを世界中の人に伝えたいと思っています。
個人的に、子どもの時のことを考えると、わたくしはガガーリンの言葉『地球は青かった』がどんな青さなんだろうという思いから、ずっと宇宙飛行士になりたいと思っていました。それを現実に見た時はもっと深い意味がありました」
そして、山崎直子さん。
「『地球は青い、丸い、美しい』ということは、今の時代、皆さんわかっているわけですけれど、実際、理屈ではなく、体にストンと入ってくるような感覚で、地球自身が生きているような感じがしました。
その中で、私たちも同じ生きているいきものどうしが向き合っているような感じがしたのが、私にとっては印象的でした。また、宇宙に行った時に、どことなく懐かしいような感じもして、宇宙は冒険で行く意味合いも強いのですが、実はふるさとを尋ねに行くような、そんな感じもしました」
お二人のお話を聞き終わると、「ワンモア?」とブラッド。もうひとつの質問は「また行きたいですか?」。すると、山崎さんは「はい、また戻りたいです」。毛利さんは「今度は違うことをしたい。何かというと火星に行きたいです」
お話するお二人の目が本当に輝いていて、「宇宙に行ってみたい……」という気持ちに。まずはリアルな映像で描かれた、宇宙のドラマを体感してみてはいかがでしょうか?
公開中。