#707 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』 レオナルド・ディカプリオ&クエンティン・タランティーノ 会見レポート(2)

 

映画の舞台は、アポロ11号の月面着陸に沸いた1969年。ヒッピー・カルチャーが盛り上がり、TVスターが映画へと活躍の場を移していく返還期。

そんな時代を生きているのが、時代の波に乗り切れないかつてのTVスター、リック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)と、彼が雇ったマイペースの付き人兼スタントマンのクリフ・ブース(ブラッド・ピット)。

架空のキャラクター二人を、映画の都ハリウッドに実在した人物たちの中に描き、タランティーノならではの遊びを込めながらも、見終わる頃には何とも言えないジーンとした気持ちにさせる映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』。

映画が公開され、すでに観た方も多いのでは……ということで、今回は少し映画の内容に触れながら、前回に続き、レオナルド・ディカプリオ&クエンティン・タランティーノ監督の会見の模様をお届けしたいと思います。

 

 

映画の前半で、ちょっと笑ってしまいつつ、鮮やかに印象に残るのが、レオナルド・ディカプリオ演じるリックが楽屋の鏡の前で、氷水に頭を突っ込み、顔のむくみをとっているシーン。当時の人たちは、そういう時、こんな方法をとっていたの!? と思うと興味深いです。

この場面で、リックのところには、イタリアでマカロニ・ウェスタン(西部劇)に出演する話が来ています。このあたり、『ローハイド』などのTVシリーズで名を馳せ、その後、西部劇の数々で活躍したクリント・イーストウッドのような俳優を思わせますが、リックがいるのはまさにそんな時代。

かつてTVスターだったリックは、西部劇に出るなんて……とその変化を受け入れきれません。

「これは数日間の物語ですが、リックはいろいろな面で変化するんです。50年代のTVスターだった彼は、今では誰も憧れないアンチ・ヒーローみたいな役も演じている。彼にとっては、予想もしなかった状況にいるわけですが、それはクリフにとっても同じ。コインの裏表のように友情で結ばれた二人が数日間で変わっていく物語なんです。リックは撮影現場で、少女の俳優と出会って、彼女の言葉から、彼の奥底にあった力を引き出される、それが彼の変化につながる。そんなストーリーにも惹かれました」

出演を決めた西部劇の撮影現場で、リックが共演者であるプロ意識の高い少女と出会い、撮影の合間に交わした彼女の言葉に元気づけられるシーンは、映画の中でも心に残る場面。

映画の多くのシーンには、リックとクリフの息の合った何気ない日常会話のシーンをはじめ、タランティーノ監督ならではのユーモアが息づいているのですが、そんなゆるゆるとしたムードの中に、こういう素敵な場面が隠れているのだから、なかなか心ニクイ作品なのです。

そんな人生の転換期に立たされたリックを演じるため、タランティーノ監督の勧める作品に触れながら、リサーチを始めたというディカプリオ。「まるで未知の世界に迷い込むよう。本当に心に触れる経験だったよ」と語ります。

「リックというキャラクターを通して、僕らが愛している、かつての多くの映画に出演した今は忘れられてしまった俳優の皆さんを知ることができたんです。この映画はハリウッドへの祝福だと思いました。リックは悩んでいるけれど、なんとかこの世界に存在できている。まだラッキーな方なんだろうなと思います」

リックとは対照的に、ディカプリオ自身は、ずっとスターであり続けているわけですが、映画の中に描かれる奇跡にちなんで「あなたにとっての奇跡は?」という質問が出ると、こんな話が聞かれました。

「僕はLAで育って、ハリウッドで生まれているんです。もちろん、映画の都で生まれたわけじゃなくて、小さな街のハリウッドの方なんだけど(笑)。世界中の人が夢を求めて、この地にやってくるけれど、なかなかそれが叶う人は少ないことは僕もよく知っているし、そんな中で、僕はラッキーなことに、子どもの頃からハリウッドにいたから、学校が終わるとオーディションを受けに行く生活ができた。今もこうして仕事があって、しかも自分で作品を選択することができるなんて、俳優としはミラクル。本当に感謝しています」

その質問については、タランティーノも、

「9本も映画を作ることができて、日本に来ても僕が誰なのか皆が知っていてくれて、映画のキャリアをこれだけ築けていることがミラクルだと思っています。レンタルビデオ店で働いていたのだから。そして、単に仕事だからではなく、自分の人生とリンクする形で物語を語り、映画が撮れていること。本当に幸運だと思っています」

 

 

二大スターの共演のみならず、物語のキーになる名匠ロマン・ポランスキー&シャロン・テート夫妻や、当時、活躍したスターや映画人……虚実混在する人間模様も本作の大きな魅力ですが、1969年当時の古きよきハリウッドの街が再現されていることも、また大きな魅力。タランティーノだけに、音楽をはじめ、その場に居合わせないとわからない時代のムードが感じられるのが楽しいのです。

「この時代の息吹を吹き込むことは、本当に楽しいことでした。何にいちばん満足しているかって、実際、いま生きている実在の街ロサンゼルスで撮影できたこと。CGも使わず、スタジオも使わず、セットを組むこともなく、車や人通りも生活もある実際の場所で、美術や衣裳や映画で使われる様々なトリックを駆使して、この時代を再現できたことにマジカルな満足感を感じています」

そう言い終わると、止まらない勢いで、さらに話を続けるタランティーノ。それを見たディカプリオも、監督の溢れ出る映画マニアな一面に温かなスマイル。記者会見の場からも笑いがこぼれました。

「1969年といえば、最近初めて知った蔵原惟良監督の『サファリ500』という映画があって、1969年の興収1位なんです。僕、まだ2日ぐらい日本にいるから、誰かDVD持っていたらお願いします(笑)」

そして、そんな映画愛に満ちた監督の撮影現場について、同席したプロデューサーのシャノン・マッキントッシュがこんな話をしてくれました。

「クエンティンの現場は、ファミリーに戻るような感じなんです。彼の初監督作『レザボア・ドッグス』の頃から働いているスタッフもたくさんいますし、彼がどんな映画を撮るか知る前から、他の仕事を断ってでも参加したいといって楽しんで現場に戻ってきます。というのも、彼の現場にはそれだけの歓びがあるんです。クエンティンとの仕事は本当にマジカル。豊かなインスピレーションを受けながら、皆が彼のビジョンを一緒になって作り上げようとするんです。そして、撮影していない時は、まさにクエンティンの映画の授業。「この映画を観るといいよ」って。彼は誰よりも映画に詳しいですから」

 

 

今回、ディカプリオやブラッド・ピットと撮影するタラティーノを見ていても、そんな歓びを感じたそう。映画好きが集まったこの映画は、ハリウッドへの賛歌でもあります。会見の最後には、そんなハリウッドへの思いを聞かせてください、という質問が出ました。

「レオとよく話していたんだけど、僕ら二人にとって、ハリウッドには二つの意味があるんです。ひとつは映画業界のこと、そしてもうひとつはハリウッドという街。その両方を描いたのが、この映画です。人々が住む街でもあり、同時にひとつの業界として大・中・小さまざまな成功と失敗が隣り合わせに混在している。そして常に移り変わりゆく興味深い世界。感覚としては、ずっと同じ学校に通っているみたいな感じ。高校生活が25年続いているような感じです(笑)」

とタランティーノ監督。最後に「どうレオ?」と問いかけると、「僕もそう思います」と答えたディカプリオ。

「さっきもお話したけれど、僕にとっては生まれ育った場所。家族がいて、いい友達がたくさんいて、もう僕の一部のような街。ある意味、夢の工場で、もちろん成功も生み出すけれど、その裏にたくさんの失敗もある。世界中から集まった素晴らしい人たちと僕はここで出会っているし、政治的な考えが合う人もいるし、ここに戻ってこられることがハッピーだと思える街ですね」

そんなハリウッドへの愛をふんだんに感じさせる『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』。リック役のディカプリオと共に、ブラッド・ピット演じるクリフもまた年齢を経た今だからこその味わい深いかっこよさを感じさせます。

次回は、そんなブラッド・ピットの最新作『アド・アストラ』の会見の模様をお届けします。

 

公開中。

公式サイト:http://www.onceinhollywood.jp/