前回からお届けしている公開中の映画『三姉妹』の監督インタビュー。
主演とプロデューサーを兼ねている『オアシス』の女優ムン・ソリさん。話題のドラマ『愛の不時着』や最近では是枝裕和監督の新作『ベイビー・ブローカー』にも出演中の名バイプレイヤー、キム・ソニョンさん……巧い役者が集まり、幹の太いドラマを見せてくれる必見の作品です。
大人になった三姉妹の日常を絶妙なエピソードを重ねて、描いていく本作。前回は、三姉妹それぞれのキャラクターに込めた監督の思いを伺いましたが、エライことになっている三姉妹の話だというのに、なぜか途中から笑えてくる。この表裏一体も、この映画の見事なところ。そんなシリアスと笑いの表裏一体に、今回は迫りたいと思います。
悲しみの中にも笑いがある。それが私たちの世界。
―今回の三姉妹、二人のお姉さんは言いたいことを徹底的にガマンしてしまう性格ですが、三女のミオクは思ったことを考えなしに全部言ってしまう。それが映画全体に笑いを誘い、観客をホッとさせます。そこは意図されたんですか?
イ・スンウォン監督:そうです。ミオクのことを脚本に書いている時は、とにかく楽しかったですね(笑)。彼女の行動は一見するとハゲシイですが、ちょっと憎めないところがありますから。
彼女が良い母親になろうと一生懸命努力して、家族のためにゴハンを作る場面があるのですが、ヘンに焦げていたりして、トンデモナイ料理になってしまう。あの場面も書いていて楽しかったです(笑)。
もしかしたら、三姉妹の中で一番幸せな家庭になるかもしれないなと思うんですよ。そんな風に彼女に笑いの要素を担当してもらうことで、一番傍若無人に見えるミオクが、一番温かい人のように思えたらいいなと思いました。
―ミオクとダンナさんのやりとりも、なんだか温かくていいです。ところで、彼女の職業は劇作家で、監督は演劇も手掛けられますが、日頃お付き合いのある周囲の舞台人を反映されているところはあるのでしょうか。
イ・スンウォン監督:そうですね。性格的に、この人だったら、ミオクと同じような行動をとるな、という人は常に周りにいます(笑)。
ただ、そういう一見すると迷惑な行動をとる人も、その裏を見てみると、ミオクと同じように、ひとりで抱え込んでいるもの、彼女をそうさせてしまう何らかの理由があるはずだと思うんです。
そうやって、困った人の裏側に思いを馳せてもらえたらと思いました。身近にそういう人がいた時に、表の行動だけを見て避けるのではなくて。
だからこそミオクがちょっと愛されるキャラクターであることは大事なんです。彼女に感じたように関心を持って、周りの人を見てもらえたら、また違った見方ができて、関係性も変わってくるのではないかと思うんですよ。
―幼少期のモノクロの場面も、一生懸命歌うミオクがなんともいいですね。幼少期は映画の大事な場面ですが、ここでもミオクの面白さが効いています。悲惨な人たちを描きながら、常に笑いが併走しています。
イ・スンウォン監督:本当に笑いは大切だと思います。実際の私たちの人生も、ただ暗いだけとか、ただ辛いだけってことはないですよね。暗さの中に明るさが、悲しみの中に笑いが共存している。
だから私は物語を描く時、対照的な感情が混在している場面が好きなんです。ここは笑っていいの? 泣くシーンなの?というような。それこそが、まさに私たちが生きている世界だと思いますから。
今回も大変な三姉妹の話ですが、そこに正反対の笑いを交えることで、意味のある笑いになるわけです。
―長編デビュー作『コミュニケーションと嘘』は男女の話ですし、『三姉妹』は家族の物語。常に人間関係に焦点を当てておられます。
イ・スンウォン監督:いつも考えているのは、私たちが生きている世界の中で、あまり関心を持たれない人たちのことです。世の中から疎外されている人たちを描きたいという思いがあります。
多くの人たちが敢えて目を向けない人たちを映画に登場させて、その人たちへの理解を深めてもらうことができたら。これからも意味のある、そして楽しめる物語を届けていきたいです。
インタビューを終えて、大変な状況にいる三姉妹の物語なのに、そこにぐんぐん引き込まれていくのは、監督が彼女たちに向けた視線のせいなのだと思いました。人を見つめるまなざしが深く、温かい。彼女たちのただならない幼少期の経験が、それによって昇華されていく過程を、ぜひ劇場で追体験してみてはいかがでしょうか。
取材・文:多賀谷浩子
6/17(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにて全国公開中。
公式サイト:http://www.zaziefilms.com/threesisters
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