本日から公開されている映画『三姉妹』。
世界で注目される韓国映画ですが、その名作がまたひとつ、日本で公開されます。
主演はイ・チャンドン監督の『オアシス』(02)の名演が印象深いムン・ソリさん。作品に共感した彼女が、プロデュースも手掛けています。
登場するのは、明らかに大変そうな長女、一見うまくいっているようで、内心は崖っぷちの次女、そして大変なはずなのに、なぜか笑いを誘ってしまう三女……
大人になった三姉妹の葛藤を、心に迫るエピソードを絶妙な流れの中で折り重ねながら、いつしか観客を怒濤のクライマックスへと連れて行く必見作です。
脚本・演出を手掛けたのは、これが長編2作目となるイ・スンウォン監督。間違いなく、今後、注目を集めていくであろうイ監督に、本作にまつわる様々なお話をうかがいました。
問題を抱えてきた家族が、もしも一言、謝ることができたなら
――主演のムン・ソリさんがプロデュースもされています。どんな経緯だったのですか?
イ・スンウォン監督:私の長編デビュー作『コミュニケーションと嘘』(15)が釜山国際映画祭に出品された時に、ムン・ソリさんも「今年の俳優賞」という賞の審査員でいらしていて、映画祭の小さなパーティでお会いしまして。『コミュニケーションと嘘』が非常に印象に残ったとムン・ソリさんの方から声をかけてくださったんです。
長編デビュー作でしたから、映画界にまだ人脈がない頃で、そんなふうに声を掛けて下さったのが、とてもありがたくて。授賞式では、『コミュニケーションと嘘』の俳優に賞まで下さって、せっかくのご縁をこれでおしまいにしたくないなと思い、映画祭の最終日に「次回作の脚本を書いたら、お見せしてもいいでしょうか」とお話したんです。
そうしたら、ムン・ソリさんが「いつでも見せてください」と。その後、『三姉妹』の脚本を書き上げまして、別の映画祭でお会いした時にお見せしたのが、今回、ご一緒することになったきっかけです。
――三姉妹を軸にした家族の物語ですが、背景に父権社会の問題が見えてくる緻密な脚本です。監督が最初に、この映画でやりたいと思われていたのは、どんなことなんですか。
イ・スンウォン監督:この映画のシナリオを書く前に、なんとなく考えていたことがあるんです。それは私たちの日々のコミュニケーションのことで、他人に対しては、わりと簡単に謝れるのに、毎日一緒にいる家族となると、なかなか謝れない。そういうこと、ありませんか?
それは、なぜだろうと考えてみたことが、大元のスタート地点になっているような気がします。親子だというのに会話が断絶していたり、家族なのに心を開けない。そういう家族、実はたくさんいると思うんですよ。
そうやってお互いが傷つけ合って、傷を深めている家族が、もしも一言、謝ることができたなら、近しい家族だからこそ、関係性がガラリと変わるのではないか。「申し訳なかった」という一言が、家族の長年の問題や心の痛みをどれだけ解決してくれるか。それを伝えたいと思ったんです。そこをゴールに、一気に脚本を書き上げました。
――この家族の場合、お父さんの存在が三姉妹の根深い問題になっています。そんな父親との関係性を軸に、それぞれの三姉妹のキャラクターを肉付けされていったのかなという印象を持ちました。キャラクターの造形がすばらしくて、先程、「他人には簡単に謝る」というお話がありましたが、長女のヒスクは本当に誰にでもすぐに謝ってしまう、なんだか切ないキャラクターです。
イ・スンウォン監督:それぞれの人物にどんなトラウマ、どんな強迫観念があるのかを考えながら、キャラクターを作っていきました。長女のヒスクに関しては、すべてが崩壊している人物。三姉妹の中で一番、自己肯定感が低いと云ってもいいと思います。
それが本心かどうかはわからないけれど、彼女は誰に対しても、とにかく謝ってしまう。それが家族であっても、他人であっても、常に自分を他者より低い立場に置こうとしてしまう。非常に屈辱的な人物として描きました。
――では、ムン・ソリさんが演じている次女のミヨンについては、いかがですか。
イ・スンウォン監督:ミヨンは自分の人生を克服したい、トラウマに負けたくない、という意志が強いんです。それが強すぎるあまり、宗教に傾倒してしまうんですね。
自分の人生を完璧に見せたいがゆえに、水面下ではいろいろな問題を抱えているにもかかわらず、すべてのことを隠してしまう。そういう傾向のあるキャラクターとして描きました。
――では、三女のミオクについてはいかがですか?
イ・スンウォン監督:ミオクは一見すると、自由奔放に見えるのではないでしょうか。でも実は、彼女も自己肯定感が低い。そこは長女のヒスクと同じですが、その表れ方が正反対なのです。
誰に対しても低く出てしまうヒスクに対し、ミオクは誰に対しても尊大な態度をとって、そんなつもりはないのに罵詈雑言を吐いてしまう。自己肯定感の低さが、そういうエネルギーとして表出してしまうタイプなんですね。
そんな振る舞い方をしてしまうから、本当の姿をなかなかわかってもらえない。言ってみれば、それぐらいトラウマが深いのだと思います。
そんなふうに、3人の姉妹がそれぞれ、どんなトラウマや心の傷を抱えていて、それが彼女たちの人生や家族にどんな影響を与えているのか。そこを考えながら、この映画のキャラクターを作っていきました。
こうしてインタビューだけをお読みいただくと、どれだけ悲惨な映画かと思われるかもしれませんが、エライことになっている三姉妹の話がつづくというのに、なぜか途中から笑えてくる。この表裏一体も、この映画の見事なところ。一瞬たりとも飽きさせません。
次回のインタビューでは、その表裏一体に迫りたいと思います。
取材・文:多賀谷浩子
6月17日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにて全国順次公開中。
公式サイト:http://www.zaziefilms.com/threesisters
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