#731 ベイビー・ブローカー

公開中の映画『ベイビー・ブローカー』。

是枝裕和監督の最新作ですが、監督の映画デビュー作は95年の『幻の光』。主人公の澄んだ佇まいが印象的な、夫を亡くした女性のお話でした。以降の是枝作品には、大切な誰かを亡くした家族の「不在」と「記憶」が毎作品ごとにしばらく描かれていて、

『歩いても 歩いても』でインタビューする機会をいただいた時に、そのことを伺ったら、監督が笑いながら、「海外の映画祭で取材を受けて、翌日の新聞を見たら、自分の顔写真の上にデカデカと“DEATH AND MEMORY”という見出しがついていた」という話をしてくださったのを憶えています。

是枝監督のような作家性の強い監督の興味深さは、ご自身の人生とともに作品が変化してゆくこと。『誰も知らない』(04)で、子どもの演技の自然さが広く知られましたが、ご自身が父親になられてからは、子どもは子どもでも、「親になること」の方に焦点が当てられた作品が印象深く、『そして父になる』(13)『万引き家族』(18)そして今回の『ベイビー・ブローカー』(22)と続いています。

左からカン・ドンウォン、イ・ジウン、ソン・ガンホ。

今回、親になるのは、韓国で国民的な人気だというイ・ジウンさん。彼女が演じるソヨン、魅力的でした。お芝居がすごく巧いとか、そういうことよりも、話す声だとか、彼女の醸している雰囲気がいい。何か惹きつけられるんです。

6月13日に開かれた監督の凱旋記者会見では、彼女をキャスティングした監督ご自身も「ここまで彼女が人気者だとは知らなかった」そうで、「韓国の街中で撮影していると、彼女が広告をしている看板が映り込んでしまう」とその人気ぶりを語っていました。

物語は、暗い雨の日、ひとり赤ん坊を抱いたソヨンが「赤ちゃんポスト」に子どもを預けるところから始まります。冒頭シーンの陰影から引き込まれますが、撮影監督はイ・チャンドン監督の『バーニング』やポン・ジュノ監督の『パラサイト  半地下の家族』、最近では日本の李相日監督の『流浪の月』も手掛けたホン・ギョンピョさん。

ソヨンの一連の行動を車の中から固唾を呑んで見守っているのが、刑事のスジンと同僚のイ刑事。スジンは『空気人形』(09)で是枝監督と組んだペ・ドゥナさん、そしてイ刑事はドラマ『梨泰院クラス』(20)のイ・ジョヨンさん。

左から、刑事役のペ・ドゥナとイ・ジュヨン

さらにシーンが進むと、そこは赤ちゃんポストの設置された教会の中。牧師さんの格好をしたソン・ガンホさんが、例の赤ちゃんを抱いている。あれ、この人は一体――?

一緒にいる若者は『オオカミの誘惑』(04)(なつかしいです……初来日した時、あまりにしゅっとスリムなので、取材陣がびっくりしたのを思い出します)や『新感染半島』(20)のカン・ドンウォンさん。早くも役者が揃います。

赤ちゃんポストに預けられた子どもには「迎えに行く」というメッセージが残されています。けれど、カン・ドンウォン演じるドンスは、その言葉を信じません。なぜなら彼自身、この赤ん坊と同じような経験を持っているからです。

思いも寄らない偶然が重なって、母親のソヨンとともに、この赤ちゃんの里親探しの旅に出ることになるソン・ガンホ演じるサンヒョンとドンス。それを追う二人の刑事。行く先の読めないロードムービーが始まります……。

さて、その結末は――。次回に続きます。

全国公開中。

映画『ベイビー・ブローカー』公式サイト (gaga.ne.jp)

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