#737 SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022を振り返って

7月16日(土)から開催されていたSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022。24日(日)に国際コンペティション、国内コンペティションの各賞が発表される授賞式が行われました。

今年、国際コンペティション部門でグランプリを受賞したのは『揺れるとき』。

過酷な環境に身をおく10歳の少年の物語で、フランスでは2017年の『ジュリアン』のように子どもを取り巻く家庭環境の問題を映画的な魅力で描いた力作が見られますが、この作品もそうかな……と思ってみていたら――。物語は意外な方向へと進んでいく。こんなにも壊れやすい繊細な感情を、よく映画に閉じ込めたと思うような作品でした。

受賞したサミュエル・セイス監督も「スタートから豊かな旅路を歩んだ作品です。ある少年の子ども時代、年齢的にとても映画的で美しい時期を捉えようと思いました」

ビデオメッセージを寄せた審査員長の寺島しのぶさんは本作について、

「この映画は、私たち審査員の皆が心を打たれました。主人公の男の子に最後の最後まで目を離せず、彼の演技は彼自身が持っているものなのか、監督はどうやって彼をあのように導びかれたのか。とても素敵な映画でしたし、最後にちゃんと夢があるというところに映画としての完成度の高さと未来を感じました。素晴らしい映像をみせていただいたと思っております。個人的には、国際コンペティション部門の10本あるなかの5本をフランスが出資している。やっぱり芸術に対する理解がフランスは違うんだなと。どうかこの作品に配給がついて、たくさんの人に観ていただけたらいいなと思っております」

『揺れるとき』 ©Avenue_B

『揺れるとき』のほかにも、審査員の松永大司監督の「久しぶりに大勢と映画館で観るという経験の中で、映画が好きという思いを思い出させてもらった作品。とにかく音の使い方が上手く、家の環境では感じられない音の設計、画の作り方、これが映画館で映画を楽しむことだなと一観客としてワクワクできたこと。これが本当にこの作品において監督の大きな力だと思いました。そういう意味で監督賞を。まだ1作目という驚くべき実力に触れて、自分も大きな刺激を受けました」というコメントと共に監督賞を受賞した『マグネティック・ビート』は、冷戦下の80年代フランスを舞台にした、ラジオ放送に夢中になった兄弟の青春物語。

『マグネティック・ビート』

そして審査員特別賞を受賞した『UTAMA~私たちの家~』には韓国の釜山国際映画祭プログラム・ディレクターであるナム・ドンチョルさんから、こんなコメントが寄せられました。

「映画の魔法の力で我々観客を別世界に誘ってくれる作品でした。この映画を観ていると、私たちの様々なものに対する偏見が取り除かれます。例えば、未開より文明のほうが正しいのか、あるいは老いより若さのほうが望ましいのか、そういった疑問が頭をもたげるわけですが、この作品から受け取れることはそういった物事の成否ではありません。ありのまま受け止めることが必要 なのだと感じさせられました。そして何より、この作品に登場する老夫婦の生きざまに敬意を抱かずにはいられませんでした」

観客賞を受賞した『彼女の生きる道』も含め、映画祭で上映されたいずれの作品も27日23時まで、こちらの配信サイトで視聴できます。

『UTAMA~私たちの家~』 ©AlmaFilms

映画祭の総評として、寺島しのぶさんは、

「世界700以上の中から選ばれた10本の映画が本当に素敵で、パンデミックの中で皆さんが力を合わせて、それでも作品を作り続ける意欲に何度も心を打たれました。やはり、コロナ禍ということで、生きていくもの、死んでいくもの、そして残されたもの……その人たちが後退したり、前を向いたりという生死に関わるテーマが多く見られたような気がします。私も10 作品を観て、何度勇気をいただいたかわかりません。映画を作った皆様に、心から敬愛の意を表します」

そして、国内コンペティションの審査委員長であるカメラマンの芦澤明子さんは

「驚くべきレベルの高さにびっくりしました。しかも、その多くがコロナ禍という厳しい環境での撮影で、本当に大変だったろうと思います。望むと望まざるに関わらず、やはりコロナ禍を経て、これからの未来というものの表現が、各々の作品に出ていたという点が、今までの作品とは違うところだなと思いました。本当なら皆さんに賞を差し上げたいと思うぐらい、いろいろな賞も考えました。

いまどきはオンラインで手軽に見られる方法もありますけれど、やはりスクリーンで観てこそ映画と確信しています。こういった映画祭のようなありがたい上映環境を与えられたということは、参加された製作者の皆さんにもよかったと思いますし、残念ながら今回は受賞できなかった作品も、ここで上映されて観ていただいたということに誇りと自信を持って、次の作品に挑んでいただきたいと思います」

『揺れるとき』のサミュエル・セイス監督

お二人からコロナ禍での映画作りについてのお話がありましたが、『揺れるとき』でグランプリを受賞したセイス監督からも同じようなお話が聞かれました。記事の最後に、ご紹介したいと思います。

「コロナ禍で観客の皆さんがなかなか足を運んでもらえないという大変な時代ですが、皮肉なことに映画を作る側としては、再び活力がみなぎっています。さまざまな物語が語られはじめ、技術も進化して新たな領域に入ってきている。そうして観客の皆さんが再び足を運んでくれることを願っています。やはり映画というのは映画館で大勢と共有するものだと僕は信じていますから」

取材・文:多賀谷浩子

公式サイト:SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022 (skipcity-dcf.jp)

オンライン配信:オンライン配信|SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022 (skipcity-dcf.jp)