#736 夏休みの映画館 2022

学生の皆さんは、今日から夏休み。「夏休みの映画館」という企画をご存じですか?

全国のミニシアター劇場支配人の方々が、夏休みを迎えた小学生~大学生のみなさんに観てもらいたい映画を、それぞれの視点からピックアップして上映するという、なんとも心のこもった1週間の特集上映。高校生以下は500円で楽しめます。

シネコンで上映される大作以外の映画とは、出会う機会が限られてしまう今。1本の映画との出会いをきっかけに、世界にはこんなに多様なワクワクする映画が、そして世界があるのだということを知ってもらえたらという思いから、映画の上映と共に、楽器の演奏やトークイベントも開催されるなど、夏休みの忘れられない「出会い」の場になっています。

『月世界旅行』

例えば、活弁・生演奏付で楽しめる「無声映画」の上映も貴重な機会。そのうちの1本『月世界旅行』は、映画を学んだことのある人なら、「映画の歴史」の講義で一度は目にしたことのある、ジョルジュ・メリエス監督が映画の黎明期である1902年に手掛けた作品です。

その名の通り、月旅行に出かける人たちを描いているのですが、月が人間の顔のように描かれていて、そこにロケットが着陸する場面なんて、今観てもコミカル。100年以上前のギャグ的場面にシビれます。これにライブ演奏が付いて観られるなんて、とても贅沢な機会です。

無声映画でいうと他にも、チャップリンの作品と共に、同時代に活躍した喜劇のスター、バスター・キートンの映画も上映されます。時代を超える、鋭くも温かな笑い。この機会に触れてみるのも貴重な体験になりそうです。

『セロ弾きのゴーシュ』

そのほか、宮沢賢治の物語を高畑勲監督が描いた不朽のアニメーション映画『セロ弾きのゴーシュ』も上映。チェロのミニコンサートや朗読のワークショップ、ミニレクチャーなど各劇場ごとのイベントと共に楽しめます。

また、10代で観られたら素敵だなと思うのはジャック・ドゥミ監督の魅惑のミュージカル映画『ロシュフォールの恋人たち』。理屈抜きに、この映像とかっこいい音楽に包まれたら、どんな気持ちになるでしょうか。まさに忘れられない夏になるのでは。

『ロシュフォールの恋人たち』 ©cine tamaris 1996

同じくフランス映画では、アンスティトゥ・フランセ(昔は日仏学園と呼ばれていました。フランス大使館の文化を広める機関です)の映画プログラム主任である坂本安美さんが中高生に観てほしい映画として選ばれた作品『キャロル』の上映も。トッド・ヘインズ監督が二人の魅力的な女優を主人公に描く、1950年代の世界です。

『キャロル』 ©NUMBER 9 FILMS (CAROL) LIMITED / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2014 ALL RIGHTS RESERVED

そして、本サイトの前身「考える高校生のサイト~Mammo tv」での連載の最終回を飾った『タレンタイム~優しい歌』も上映されます。こちらはマレーシアのヤスミン・アフマド監督の遺作になった作品です。

『タレンタイム~優しい歌』 © Primeworks Studios Sdn Bhd

CM出身のヤスミン監督は、多民族国家であるマレーシアで、民族的なバックグランドが異なる少年と少女たちの交流をみずみずしく描き、大切なことを温かな視点から描き続けた監督。触れるとぬくもりが溢れる出すような、出会えた人は幸せ者だと思わせるような映画です。

各映画館の方々からは、こんな声が寄せられました。

  • 鹿児島ガーデンシネマ 「昨年は、小学生が夏休みの自由研究の題材として選んでくれました」
  • 横浜ジャック& ベティ 「昨年はシネコン以外の映画館は初めてという人が多く、30 周年を迎えた当館のレトロな雰囲気を“新しい”と おしゃってくれました」
  • 大阪シネ・ヌーヴォ「映画を通じて、世界ってこんなに広い、こんなに豊かと知ってもらいたい」
  • 神戸の元町映画館「昨年はこの映画館で新しいお客様に出会え、これからも夏休みここに来れば面白いことやっているという場にしていきたい」
  • たかさきシネマテー ク「昨年は学童の子どもたちが団体でいらしてくれました。初めての方にも、この劇場の名刺かわりの企画にしたい」
  • 松本シネマセレクト「こどもたちが、ふらっと来れる場にしたい」

先に挙げた映画以外にも、沖縄返還50周年ということで、『ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記』という沖縄のドキュメンタリー映画が上映されたり、『夜明け告げるルーのうた』の上映では、ミニシアターを応援する関西の学生グループ「映画チア部」の協力でトークイベン トが実施される劇場も。

『夜明け告げるルーのうた』 ©2017 ルー製作委員会

今年のスタートは7月24日から。詳細はウェブサイトをご覧ください。どうぞよい夏を!

文:多賀谷浩子

公式サイト:夏休みの映画館2022 (kodomoeigakan.jp)