前回からお届けしている映画『ベイビー・ブローカー』。カンヌ国際映画祭でソン・ガンホさんが主演男優賞を受賞したことでも話題になりましたが、もうご覧になりましたか?
是枝監督の作品は「行間」に魅力がありますが、それは監督自身のお話にも云えること。
5月に開催されたカンヌ国際映画祭から、そのまま韓国に向かって映画のプロモーションを行い、帰国した空港からの足で駆けつけた凱旋会見。やはり、そのやりとりは面白かった。すでに各媒体で報道されていますが、あらためて、そんなやりとりも中心に、会見の内容を振り返りながら、この映画の魅力を考えてみたいと思います。
会見が始まると、ステージに姿を見せた是枝監督。大きな拍手に包まれながら着席すると、早速、質疑応答が始まりました。この日の司会は笠井信輔アナウンサーです。
笠井アナ:まず、わたくしから少しだけ質問をさせていただきます。先日のカンヌ映画祭でソン・ガンホさんが最優秀男優賞を受賞しました。受賞に関して、監督のお声をお聞かせください。
是枝監督:授賞式でソン・ガンホさんの名前を呼ばれた瞬間に「あ、なるほど。これは、この作品にとって本当に最高のゴールなんだな」と気づきました。
その日の夜に(同じくカンヌで最新作『別れる決心』が監督賞を受賞した)パク・チャヌクさんのチームと合同で、皆で集まってお祝いをして、皆が幸せな夜でした。
役者が褒められるのが一番うれしいんですよね。(『誰も知らない』で)柳楽くんが受賞した時は(10代で学校もあるということで)柳楽くんは授賞式の前に日本に帰っていて僕しかいなかったので、受賞した役者さんとあの場で抱き合って称え合って、というのは初めてで、ちょっと特別な夜でした。
笠井アナ:ソン・ガンホさんからは、どんな感想を言われましたか?
是枝監督:(カンヌの授賞式の)壇上でも話されていたとおり、「キャスト皆でもらった賞だから」と謙虚にお話されていました。僕の方も、僕の演出で(受賞した)というよりは、パク・チャヌクさんや、ポン・ジュノさん、イ・チャンドンさん、どの監督の映画で(主演男優賞を)とってもおかしくなかったと思いますので、むしろ僕が監督したタイミングで彼が受賞したというのは申し訳ないなと思っています。
もちろん、作品にとってはとてもラッキーで幸せなことですが、韓国の監督たちにとっては「僕らのソン・ガンホ」という大切な俳優さんだと思うので。
笠井アナ:韓国では日本より一足先に韓国で公開されて、初登場1位のロケット・スタートになりました。韓国での反応はいかがでしたでしょうか?
是枝監督:そうなんですよね。僕は今から27年前に単館(上映)から始めた監督なので、今回は1600スクリーンで上映されるということで、大丈夫なのかなというのが正直な感覚でした。
笠井アナ:それはヒットしないと大変だというプレッシャーのようなことですか?
是枝監督:いえ、僕が持っているキャパシティみたいなものは、はるかに超えているなと。(エンターテイメント映画の)『犯罪都市2』と並んでヒットしなければならない状況というのは、本気で考えると大変な事態なので、あまり考えないようにしています。
笠井アナ:『ジュラシック・ワールド』より順位が上だったんですよね。
是枝監督:そうなんですけれど、そういう順位を皆が気にしている感じというのは……僕はそこで闘ってきた人間ではないものですから。もちろん、ホッとはしていますけれど。
ソン・ガンホさんにとってはコロナ明けの復帰作なので、もちろん、お客さんが入っていただくのは何よりのご褒美だと思いますし、皆さん、うれしそうだったので、よかったです。
笠井アナ:カンヌから韓国へ帰国されましたが、空港はどんな様子でした?
是枝監督:空港、揺れていました。大丈夫かなと思うぐらい、皆がざわざわって集まってきて、出口を出たところまで、ファンの方たちがたくさんいて。国民的なスターのソン・ガンホさんがカンヌの映画祭で韓国人初の男優賞を受賞するというのは、オリンピックの金メダル以上なんだなというのは、なんとなくわかりました。
笠井アナ:何人ぐらい集まっていたんですか?
是枝監督:全然わからないですけど、もう、イ・ジウンさんのファンの方たちが空港の外まで溢れ出ていて。
笠井アナ:熱狂的な凱旋だったのですね。ソン・ガンホさんが受賞されて、映画が公開されて、韓国の皆さんのこの作品の受け止め方、反応などは具体的にお聴きになりましたか。
是枝監督:舞台挨拶は熱狂的な状況でした。反応はどうなんだろう……多分、悪くはないと思います。ただ、ちょっといろいろチャレンジしたところもあるので……。というのも、千何百スクリーンで上映される韓国映画の中では、おそらく一番、あんまり善悪がはっきりしなくて、ストーリーラインに起伏が……こんなこと言っちゃいけないのか自分で(笑/記者席からも笑い)。
『犯罪都市2』を観ようか『ベイビー・ブローカー』を観ようか悩まれた一般のお客様が、『ベイビー・ブローカー』を観た時に「え?」って思われないか、その不安は常にあります。
笠井アナ:それは是枝監督のスタイル・作家性を韓国でも貫き通したということではありませんか?
是枝監督:そうなんですよね。それを時々、後悔する瞬間があるとすれば、そういうことなんですけど。でも、届いているんじゃないかなという気はします。
お芝居のいい俳優さんは、インタビューでも丁寧に本音を言葉にしてくださいますが、是枝監督のお話にも同じことが感じられます。だから、面白いのかもしれません。
この日の会見では、そんな監督のお話を聞きたいと集まった多くの記者から熱心な質問が次々に投げかけられました。次回は、そんな記者からの質問をお届けします。
全国公開中。
映画『ベイビー・ブローカー』公式サイト (gaga.ne.jp)
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