#697 希望の灯り トーマス・ステューバー監督インタビュー(1)

 

オープニングは、誰もいない深夜のスーパーマーケット。蛍光灯の灯りが静寂を照らす中、映画に流れてくるBGMはヨハン・シュトラウスの『美しき青きドナウ』。なんだかここがとても優雅な場所のように思えてきます。

その中を音楽に合わせ行き交うのは、バレリーナのように華麗な動きを見せるフォークリフト。この詩情とユーモア。ほんの数分の冒頭シーンだけで、新たな才能を予感させます。

その「才能」、ドイツのトーマス・ステューバー監督が手掛けた映画『希望の灯り』が本日4月5日(金)からBunkamuraル・シネマほかで上映されます。公開に合わせ、監督とともに、この映画の魅力を掘り下げていきたいと思います。

 

トーマス・ステューバー監督

 

―まず、オープニング・シーンに魅了されました。店長のルーディンが新入りの青年クリスティアンを「いざ神聖なる空間へ」と店内に案内するのもいい感じです。

監督:ルーディンの冗談、いいですよね(笑)。

―「夜の時間へようこそ」と店内放送で「G線上のアリア」をかけてみたり。

好きなんです、ああいうユーモア(笑)。

―主人公のクリスティアンを説明しすぎていないところが、いいなと思いました。入れ墨をちょこっと見せて過去を感じさせる場面も、独特のリズムでリピートしていて面白いし、飲料ケースをものすごく無骨にガンガン積み重ねていくのも人柄が伝わって面白かったです。

どういう人物なのかを饒舌に語ることももちろんできるんですけど、いかに語らずに彼の過去を見せられるか。それをこの映画でやりたかったんです。

―クリスティアンは言葉ではなく、ほとんど表情で物語りますね。

そういうことのできる俳優を探していたんです。(クリスティアン役の)フランツ・ロゴフスキさんはテレビ顔でなく、映画顔ですよね。彼にはテレビのフォーマットは小さすぎる。映画の大きなスクリーンで2時間見ていたい顔なんです。

―そんなに多いわけではないですが、登場人物が後ろ姿で物語るシーンもよかったです。

ミステリアスですよね、背中って。前作『ヘビー級の心』では、今回よりもっと背中で語っています。この映画は、マーケットの通路が大事なんですね。だから、通路を行き交う人々を前から映している場面が多いんです。

―原題も「通路にて」です。

そうなんです。映画はクリスティアン、マリオン、ブルーノ、3人の登場人物についての章から出来ていますが、いわば4つめの主役が通路なんです。(日本版のポスターを見て)あ、でも、『希望の灯り』というのも素敵なタイトルだと思います(笑)。

 

 

―4つ目の主役というお話がありましたが、フォークリフトももうひとつの主役みたいでした。あんなに美しいものだったのかと、この映画で初めて気づきました。

大きなマーケットの中を動き回る生き物みたいですよね(笑)。先程、「聖なる場所」とおっしゃっていただきましたが、そういう美しさを、一見美しくないものの中に見出すことを心がけたんです。

―それは、この映画全体に言えることですね。

そうです。そういう映画にできたらと思いました。

―オープニングで、ダンスを踊っているみたいにフォークリフトが動き回ります。監督のユーモアというか遊びというか。

ユーモアというより、遊びと捉えていただけたら、うれしいです。あそこは、まだ人が誰も見えないシーンですよね。誰もいないマーケットを、フォークリフトが踊りながら、浮かぶように軽やかに動き回っているんです。

―浮かぶように。たしかに、ちょっと非現実的というか、ファンタジーのような感じがします。

そこから徐々に人の姿が浮かび上がってくるような構成にしています。大きなマーケットというのも、どこか非日常の空間。ひとつの宇宙を形成しているような、シンボル的な意味で大きなスーパーマーケットを描きました。

―それゆえの神聖な空気感なんですね。いいなと思ったシーンがたくさんあるのですが、ひとつがクリスティアンが初めてフォークリフトをうまく操縦できた時。すごくうれしそうな顔をするんです。彼もすごく孤独な人で、この映画に出てくる人たちは皆いろいろ抱えているけれど、そういう人たちの日常のちょっとした幸せな瞬間が描かれているのがいいなと思いました。

そうなんですよね。彼らは小さな共同体を作っているんです。

―皆、それぞれの素性をそんなに知らないけれど、何となくお互いを支えていて、あの共同体の温かな感じが、拝見していて、ほっこりします。

店内では共同体の一員ですが、マーケットの外に出て家に帰ると、それぞれ孤独で冷たい世界が待っている。マーケットをひとつの宇宙と捉えると、それぞれの家は衛星。外に出ると、寂しい世界に帰ってしまうんです。でも、翌日またマーケットに集まると、何かを共有できる共同体になる。この映画のスーパーマーケットは、彼らにとって、そういう場所なんです。

 

 

孤独な登場人物たちが心の暖をとる神聖なシェルターのようにも思えてくるスーパーマーケット。その中の人間関係について、次回はそこから始めたいと思います。どうぞお楽しみに。

Bunkamuraル・シネマ他にて公開中。

公式サイト:http://kibou-akari.ayapro.ne.jp/

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映画のある生活
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2003年にスタートした~考える高校生のためのサイト~Mammo tvの連載コラム「映画のある生活」が、こちらのサイトにお引っ越ししました。