#681 第20回 東京フィルメックス リポート vol. 1

 

今年で20回を迎えた東京フィルメックス。

第1回の製作発表会見を思い起こし、この20年間に上映されてきた作品を振り返ってみると、なかなかに感慨深いものがあります。

今年は第1回で最優秀作品賞を受賞した『ふたりの人魚』のロウ・イエ監督の新作『シャドウプレイ』で幕を開け、例年以上に力のある映画が揃った感がありました。

そんな映画祭期間中にさり気なく行われたのが、1月18日に公開される映画『オルジャスの白い馬』の主演女優サマル・イェスリャーモアさんのトークイベント。前回の東京国際映画祭リポートのつづきとして、お読みください。

サマル・イェスリャーモアさん

イベントが始まると、かわいらしい声で「(日本語で)こんにちは」と挨拶したサマルさん。「日本には『トゥルパン』で来ましたが、こうしてまた呼んでいただけてうれしいです」。『トゥルパン』が上映されたのは、2008年の東京国際映画祭。今から11年前の話です。

カザフスタンの雄大な大自然を舞台に、遊牧民の一家を描いた『トゥルパン』。この作品に出演したことをきっかけに、もっと演技を勉強したいと思ったサマルさんは、モスクワの大学へ。その卒業後に撮影されたのが、昨年のフィルメックスで最優秀作品賞を受賞した『アイカ』(日本での劇場公開予定あり)。

『トゥルパン』と『アイカ』は、同じカザフのセルゲイ・ドヴォルツェヴォイ監督の作品です。いずれも力のある作品ですが、撮影に一体どれだけの時間が掛かっているのか、サマルさんの答えに会場はびっくり。

「『トゥルパン』は4年にわたって撮影していました。カザフの大草原で撮影していましたから、撮影がない時に『アイカ』のリハーサルをしながら。その『アイカ』は結局、6年掛かりました。私が演じた女性は過酷な境遇にいる女性です。その状態に、撮影のたびに戻るのが大変でした。なぜそんなに時間が掛かったのかといえば、例えば、吹雪のシーンもドヴォルツェヴォイ監督は、本物の雪を待つのです。冬が来るたびに待つから、それだけの年月が経ってしまうのです」

『アイカ』で演じたのは、モスクワに働きに来たキルギス人女性の役です。この役には秘密があって、動きを重たくしなければならないのですが、当時のサマルさんは大学を卒業したばかり。演技やダンスのレッスンで体がキレキレに動く状態だっただけに、監督から「まだ(動きが)軽やか」と指示が出て、何度も撮り直したそうです。

「カメラには本当のことが映ってしまうので、走り込んで体を疲れさせて撮影に臨みました。でも、疲れすぎると、今度は演技ができなくなる(笑)。そのバランスが難しかったです」。そんな過酷な撮影から、あれだけの力強い作品が生まれたのかーーと会場はしみじみ。

さて、ここで『オルジャスの白い馬』に話がつながるのですが、この映画の監督のひとり、エルラン・ヌルムハンベトフさんは、実は『トゥルパン』の助監督。この時から、サマルさんのことをよく知っていたのです。

「エルラン監督から出演のお話をいただいて、この役には私しか考えていないと言われました。昨年のカンヌ映画祭でお会いして、『オルジャス~』のお話をうかがったんです」

そんな『オルジャス~』の撮影時の話になると、

「『アイカ』には実際の不法滞在者の人たち多く出演していたので、リハーサルに時間をたっぷり掛けて、私からも演技のアドバイスをしたりしながら撮影していきました。でも、『オルジャス~』はプロの役者ばかり。私は森山未來さんとのシーンが多かったので、彼の演技がすばらしくて、驚きと感動の連続でした。共通語は少しの英語だけでしたが、コミュニケーションにも何の問題もなく、人としても一緒に作品を作っていける人でした」

べーナズ・ジャファリさん

今年のフィルメックスで、印象に残ったシーンをもうひとつご紹介すると、それは授賞式の一幕。公開中の映画『ある女優の肖像』に出演している女優べーナズ・ジャファリさんの「詩」でした。11月30日の授賞式で、「スペシャル・メンション」作品の発表時のことです。

日本の着物生地をミックスした衣裳で登壇したエレガントなべーナズさん。選評理由をこんな詩のような言葉に託しました

「最初に言葉があり、言葉と共に神があり、言葉は神でもある。この映画は、そんな本への敬愛が描かれた作品でした。過去も現在も未来においても、本は私たちの尊い友人です。その手触り、紙の匂い。未來の私たちにとっても決して本というものが失われることがありませんように。その思いを込め、この賞を贈ります」

イランは政治家のスピーチでも詩が詠まれる国だそうですが、いつもどおり進みゆく授賞式の中で、べーナズさんの落ち着いた声で詠まれた1編の詩のような受賞コメントが、私たちを魅了し、受賞した広瀬奈々子監督も「受賞理由が本当にうれしくて、感動しております。何よりうれしいのは、装丁という表現のジャンルにこうして光を当ててもらえたことです。本が売れない時代に紙の本を考え直すことは、とても意義のあることだと思うので、この映画がひとりでも多くの人に届いてくれたらいいなと思います」。

昨年の『夜明け』に続き、『つつんで、ひらいて』で「スペシャル・メンション」を受賞したのは広瀬奈々子監督。『夜明け』の前から撮っていたという本作は、想定家・菊池信義さんのドキュメンタリー。12月14日(土)より公開されています。

次回は、こちらの広瀬監督のインタビューをお届けしたいと思います。ちなみに、この映画の英題は“book-paper-scissors”。その英語タイトルに気づいて、うっとりしたのは私だけでしょうか。

広瀬監督と審査委員長のトニー・レインズさん

広瀬監督のインタビューに続いて1月には、日本で配給されることを願ってやまないアンソニー・チェン監督の『熱帯雨』のインタビューをお届けします。アンソニー監督といえば、6年前のフィルメックスで上映された『ILOILO』の監督。7年ぶりの新作は、それだけ待った甲斐のある作品でした。こちらも、どうぞお楽しみに。

映画祭の公式サイト:https://filmex.jp/2019/

『つつんで、ひらいて』公式サイト:https://www.magichour.co.jp/tsutsunde/

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映画のある生活
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2003年にスタートした~考える高校生のためのサイト~Mammo tvの連載コラム「映画のある生活」が、こちらのサイトにお引っ越ししました。