#721 『リル・バック ストリートから世界へ』 ルイ・ウォレカン監督インタビュー vol.2

 

公開中の映画『リル・バック ストリートから世界へ』。前回に続きまして、ルイ・ウォレカン監督のインタビューをお届けします。

映画を観た方はお気づきのとおり、この作品はちょっと個性的なドキュメンタリー。例えば、メンフィスの街中でリル・バックがインタビューに応えていると、そのまま音楽にのって彼が踊り出し、ダンスシーンに早変わりするのです。

「そういうシークエンスが、この映画には6、7あるかな。メンフィスの現実から、急に彼が踊り出す場面は、ストリート・ミュージカルのような作風を意識しました。意識したのは、リアル→イマジネーションのスイッチ。僕の作品はリアルとイマジネーション、リアルとフィクションのダイアログなんだと思います」

「ドキュメンタリーを撮る際は、リアルとフィクションを行き来できる作風にしたいんです。今回でいえば、リルと仲間たちの現実を、彼らがダンスで表現する世界と同時にフィーチャーして、リアルとイマジネーションの世界を行き来してもらいたかった」

そこには、ウォレカン監督の、こんな思いが込められています。

「そうすることで、僕らが普通の日々の中で、イマジネーションを駆使して、どう現実を捉え直せるのかを伝えたいんです」

この言葉を伺って、思い出したのが、学生時代の友人の幼い息子がなにげなく言った言葉。「お父さん、人生ってつまらないね」。すると、友人はこう言いました。「だから、面白くするんだよ」。

この映画に描かれるリル・バックは、ダンスによって、そして地元メンフィスの人たちとの温かなつながりで、メンフィスの荒れた現実を「捉え直し」、毎日を「面白くして」いる。そこに、この映画の美しさを感じます。

映画の最後には、リル・バックが少年たちにダンス・レッスンをするシーンが。わかりやすくて心のオープンなレッスンが、彼の人間性を伝えます。

「リルといると、その場がやわらかになって、ポジティブなエネルギーで満たされる。一緒にいると、創造意欲をかきたてられるんです。本当に楽しい気持ちにさせて、これがアーティストの力だなと。彼のような人は、なかなかいない。自分を信じているから、自分の感情で遊んでみることができるんです。本当にかっこいいヤツだけど、温かなナイスガイ。僕が何より惹きつけられるのは、無から感情を生めるところです」

「無から感情を生めるダンス」は、映画の中にも収められています。やわらかで予測不能な動きができる足首を生かしながら、流れてきた音楽を感じるままに踊り続ける自由なダンス。そこに込められた思いが、映画で語られるバックグラウンドとともに伝わってきます。

ルイ・ウォレカン監督(右)とリル・バック (c) Stéphane de Sakutin – AFP

取材・文:多賀谷浩子

全国順次、公開中。

公式サイト:http://moviola.jp/LILBUC/