#722 SKIPシティ国際Dシネマ映画祭 2021 リポート

 

前回、こちらのサイトでご紹介した『リル・バック ストリートから世界へ』は昨年、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭 で上映された作品でしたが、そんなSKIPシティ国際Dシネマ映画祭 が今年も9月25日~10月3日に開催されました。

昨年につづき、今年もオンラインの上映となりましたが、やはり、こちらの映画祭、面白い作品と出会えます。今年は「特に」と言ってもよかったのではないでしょうか。

グランプリの『ルッツ』も本物の漁師の味わいや、語りすぎない描き方……マルタ島を舞台にした遠くて身近な作品で心に残りましたが、特筆すべきは「審査員特別賞」を受賞した2作品。詳しく見ていきましょう。

まず、『ミトラ』。

こちらはイランの映画です。

イラン映画というと、現在、渋谷のユーロスペースで特集上映「そしてキアロスタミはつづく」が行われているアッバス・キアロスタミ監督が浮かぶ人も多いでしょうか。

最近でいうと、『別離』のアスガー・ファルハディ監督。緻密な語り口、巧みな構成で、観客を物語に引き込む監督ですが、そんなファルハディ監督を思わせるのが、こちらの『ミトラ』。

『ミトラ』

舞台は現在のオランダなんです。一見すると、穏やかな日常。主人公のハーレはイラン出身の女性で、大学教授として評価され、充実した日々を送っているように見えます。

けれど、彼女の心にあるのは、80年代、イランの政情不安の中、政治活動のために亡くなった娘・ミトラのこと。一見穏やかに暮らしている日常の中で、ハーレは娘を陥れた人物とおぼしき人物に遭遇するのです。

至極まっとうに生きてきた女性の中に芽生える復讐心。その心の逡巡が、現在と過去を行き来しながら描かれていきます。

ヤスミン・タバタバイ

それが力強いのです。語りの巧さ、引き込む力の強さ。ハーレ役のヤスミン・タバタバイのおもざしが深く、私たち観客を引き込みます。

そして、彼女の抑えきれぬ激情ゆえに、距離を置いていた過去に巻き込まれていく兄のモフセンの戸惑い。

映画を見終わったあとも、登場人物のその後が気になってしまうほど、人物が映画の中で「生きて」いるのです。

そんな人物のなか、鍵になるのが、ひとりの少女。ちょっと生意気で、気の利いたことを言って大人を唸らせる何とも魅力的なキャラクターが、観客の心を掴み、彼女の出現で、映画がぐっと動き出します。

至極まっとうに生きている女性を狂わせるほどの深い思い。ふと我に返った時の哀しみ――。見終わって1週間以上が経つ今も、その余韻が残り続ける作品です。

『ライバル』

もう1作品が『ライバル』。

こちらはドイツの監督が描いた作品。

主人公はウクライナで育った9歳の少年。彼の名はロマン。

お母さんには、太っちょの恋人がいて、糖尿病を患うその男性をケアしながら、看護士として暮らしています。

このお母さんが、なんともチャーミングで、ロマンはそんなママが大好き。二人が遊ぶシーン、楽しくて魅力的なのです。

ということは、ママの恋人ゲルトは、彼にとっては最大のライバル。そんな3人の日々が、なんとも微笑まく描かれていきます。

けれど、話の流れが変わるのが、お母さんが倒れてしまう時。お母さんは病院に行くことができないのです。なぜなら、ウクライナからドイツにやってきた不法移民だから。

警察に居場所を突き止められないように、ロマンの携帯電話を取り上げるゲルト。ママのいない、ゲルトとの二人暮らし。その行き着く先とは――。

かわいい男の子がママの恋人をライバル視するかわいい映画か……と思いきや、途中から流れが変わり、観終わる頃には、こういうことを描きたい映画だったのか――と圧倒され、激しく心を揺さぶられます。

映画の開始30分と、鑑賞後では、この映画の感触が、まったく違ったものになっているのではないでしょうか。その予想のつかない描き方、キャラクターの魅力……こちらの作品も本当に引き込まれました。

映画祭を取材していて、これだけ力のある作品に、2本も出会えるなんて、本当にうれしいこと。おそらく、いずれの作品も配給がついて、映画館で公開されるのではないかと思います。

こちらの2作品、そしてSKIPシティDシネマ国際映画祭。どちらも要注目です。

文:多賀谷浩子

公式サイト:https://www.skipcity-dcf.jp