#735 SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022

今年もSKIPシティ国際Dシネマ映画祭の季節になりました。

SKIPシティというのは、埼玉県川口市にある映像施設。映像を上映するホールはもちろん、プロの映画制作から、一般のお客さんがニュースキャスターやグリーンバックの合成などの映像制作を体験できるミュージアム、NHKの過去の番組が楽しめるアーカイヴなど、さまざまな用途に合わせた映像設備が揃います。

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭は今年で19回目。SKIPシティの二つの映像上映ホールを会場に、国内外の新作映画を募集し、新しい才能の発掘・育成を目的に毎年、この季節を中心に開催されてきました(昨年は秋に開催)。

日本国内にも様々な映画祭がありますが、東京国際映画祭や東京フィルメックスのように、国内外の新作映画のコンペティション機能を果たす国際映画祭が、東京以外の都市を拠点に開催されてきたというのは画期的かつ面白いことだと思います。

今年は99の国や地域から応募があった935作品の中から厳選された23本が上映されます。この数字からも想像できるとおり、こちらの映画祭は上映作品のクオリティが高い。昨年のグランプリであるマルタの映画『ルッツ』は現在、公開中です。そのほかの受賞作品に関しては昨年、こちらでもリポートしています。

今年の国際コンペティション部門の審査委員長を務めるのは、寺島しのぶさん。先月中旬に行われた記者会見に登壇しました。

「私もあまり存じていなかった映画祭ですが、19回続いていらっしゃるということで、大きな映画祭があるのは当たり前ですが、こういう小さなところから大きな才能が見つけられて花が開いていく、その過程の中に審査員長というのはおこがましいのですけれど、世界各国から集まった若手の監督の作品が観られること、とても楽しみにしています。

 国内コンペティション部門では『シェル・コレクター』(16)で撮影をしてくださった芦沢(明子)さんなので、久しぶりにお会いできて、とてもうれしくて、二人で楽しくできたらいいなと思っています。素敵な作品に出会えること、楽しみにしております」

寺島しのぶさん(右)と芹沢明子さん

そして、国内コンペティション部門の審査員長を務めるカメラマン・芹沢明子さんは、

「19回目ということで、継続は力なりと申しますけれど、長きにわたって映画祭を支えてくださっているスタッフの方々、関係者の方々に本当に敬意を表したいと思います。

3年ぶりのスクリーン上映ということで、作家の方々は、自分の作った作品を観てもらう機会がなかなかない中で、関係者以外の一般の皆さんに広く、大きなスクリーンで観てもらえるチャンスを上手に生かしていただいて、この映画祭を活用しつくして、どんどん伸びていってほしいなと思っています。

 そして、観客の方にもぜひ来ていただいて、好きだ嫌いだ、いいの悪いの、どんどん賑やかにおしゃべりしていただいて、盛り上がりのある映画祭になったらいいなと思っております。熱量の高い映画と出会うことを心から期待しております」

ひさしぶりの再会を喜び合うお二人

続いて、映画祭ディレクターの土川勉さんから、今年のラインナップについてのお話がありました。

 「(こちらの映画祭の)過去の受賞者には、 白石和彌監督、中野量太監督、植田慎一郎監督、片山慎三監督をはじめ、今、日本の映画界の第一線で活躍されている方が多数いらっしゃいます。

 今年のオープニング作品は2018年に『予定は未定』で短編部門優秀作品賞、19年に『ミは未来のミ』がSKIPシティアワード、20年に『コーンフレーク』が長編部門観客賞と、本映画祭で初めて3年連続で受賞した磯部鉄平監督の『世界のはじまりはいつも君と』をワールドプレミアとして凱旋上映いたします。

 また、特集上映は「What’s New~飛翔する監督たち~」と題しまして、本映画祭出身の萱野孝幸監督と真田幹也監督の新作もワールドプレミアとして上映します。これらの若い監督たちが、先の監督たちの次の世代を担っていっていただけたら、若手映像作家の発掘・育成を掲げている本映画祭として嬉しく思います」

続いて、プログラム・ディレクターの長谷川敏行さんから、

「今年の国際コンペ部門は、80年代フランスを舞台にした青春ドラマ(『マグネティック・ビート』)、北欧版ファーゴともいえるような趣のクライム・ムービー(『ワイルド・メン』)、ガーナ系アメリカ人女性のコメディ(『クイーン・オブ・グローリー』)、そしてガラスに描かれた油絵のアニメーション(『ザ・クロッシング』)と非常にバラエティに富んだラインナップとなりました。

今年の特徴として、フランスで製作された映画が多いのですが、おそらくこれはコロナ禍で映画製作が困難になった中、国の助成が豊かなフランスで秀作・力作が作られたのではないかと考えております。

日本から唯一のエントリーとなりました三姉妹のドラマ『とおいらいめい』は映画の至福に包まれる2時間半の傑作となっております。また、今年は審査委員長が二人とも女性ということで、我々の方でも映画監督の男女比を確認してみましたが、国際コンペに関してはちょうど5本ずつとなりました」

   『とおいらいめい』 ©ルネシネマ

「子どもの視点から描いた作品が2本ありまして、まったく趣が違うので、見比べていただきたいです。スウェーデンの『コメディ・クイーン』は非常にかわいらしい、少女がひたむきに父親を笑わせようとするお話ですが、『揺れるとき』は子どもでありながら子どもをケアしなければならない、貧困の中にある少年の恋のめざめを描いていて、LGBTQの子どもということを描いていたりもする、現代的な鋭い視点で描かれた作品です」

そして、国内コンペティション部門に関しては「長編部門につきましては、、作品の個性とセンスが際立つ6本が揃ったと考えております。

短編部門につきましては、15分の作品から59分の作品まで幅があり、一番短いの15分の『しかし、それは起きた。』は極限までそぎ落とされた非常に濃密な作品。

一番長い54分の『ウィーアーデッド』は一見、余計と思えるシーンにこそ感情がほとばしる作品で、改めて映画の多様性、短編作品の奥深さを感じられるラインナップになったと考えております。

ちなみに、こちらも男女比は4本ずつで、全コンペティション部門、24作品を通しまして女性監督の作品は41・7%となりました」

『コメディ・クイーン』 ©Ola Kjelbye

今年はほかに「ウクライナに寄せて」というチャリティー上映も開催。過去にコンペティションで上映された2本をリバイバル上映し、その収益はウクライナへの人道支援に役立てるため、日本赤十字社を通じて寄付されます。上映されるのは20年製作の『この雨はやまない』と13年製作の『ラブ・ミー』。

「2014年に本映画祭で上映した『ラブ・ミー』のマリナ・エル・ゴルバチ監督の最新作『Klondike』(22)は今年のサンダンス映画祭のワールドシネマ・ドラマティック部門で監督賞、ベルリン国際映画祭パノラマ部門でエキュメニカル賞を受賞しています。トルコ人男性とウクライナ女性の切ないラブストーリーなので、ぜひご覧いただきたいです」

こちらの映画祭、地元・川口のお客さんはもちろんのこと、映画祭期間中は川口駅前から会場までの送迎バスが出ていることもあり、一度訪れた人たちの中にリピーターが多い印象。私もそのひとりです。一度訪れるとクセになる映画祭だと思います。

コロナ以降の2回はオンライン配信で行われ、この間に30代以下の視聴者が増え、43都道府県からの視聴が見られたそうです。今年は3年ぶりのスクリーン上映とオンライン配信の2本立てで、スクリーン上映は16日から、オンライン配信は21日から開催されます。

ガラスに描かれた油絵のアニメーション『ザ・クロッシング』

取材・文:多賀谷浩子

公式サイト:SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022 (skipcity-dcf.jp)