前回からお届けしている公開中の映画『同じ下着を着る二人の女』キム・セロン監督インタビュー。
映画が始まって、一瞬にして引き込まれるのが車の場面。まさかのシーンだけに、昨年の東京フィルメックスで拝見していたときも、会場の緊張感が一気に上がるのを感じました。そんなエピソードからスタートです。愛にはいろいろな形があるのに母性はひとつの形しかない
―車のエピソード、衝撃的でした。
この映画は母性の話ですが、愛にはいろいろな形があるのに、社会が母親たちに求める母性の形はひとつしかない。ひとつの形しか許されないように思うんです。そこからはみ出すと後ろ指を指されたり、陰口をたたかれるようなところがある。そういった社会の母性神話があるわけですが、大手企業が生産した車にも似たことが言えると思ったんです。不良品を作るわけがないと思われていますから。実際、この映画のような事故は起きているんですよ。そこを絡めて、このシーンに取り込みました。
―他にも冒頭の場面。30歳手前の娘が洗面所で下着の洗濯をしていると、お母さんがやってきて……。衝撃的で一気に引き込まれました。
あのシーンは実際に私の母がした行動なんです(もちろん洗濯中ではないと思いますが、娘の下着を……という意味だと思います)この映画を撮るまでは、どこの母娘も同じことをしていると思っていました(笑)。映画の中の母娘は激しいので、私も母も心配していたのですが、このシーンを面白く受け止めてもらえたのならホッとします。
―たしかに母娘のやりとりは辛辣ですが、スレスレで笑いになりそうなドライさも感じます。不愉快な母娘の関係性を描いているのに不愉快な気持ちにならずに引き込まれます。
そこは意識したところです。辛辣な映画で終わらせたくなかったんです。その中にも痛快さや爽快さがあるようにしたくて。個人的には、母親のスギョンを個性的な中年女性として描きたかったんです。下着のシーンも、見方を変えると、非常にユーモラスでタフな女性だと思うんですよ。母という存在に求められるのは献身的なイメージですが、そこに囚われない人物像を描きいと思いました。
―スギョンには、そういう面白さを感じました。キョーレツなお母さんですが、ひとりの女性としても描かれています。
そうご覧いただけると、うれしいです。現実でも、悲しみの中にふと笑える瞬間がありますよね。ユーモアって大事だと思うんです。苦痛の中にあるユーモアというのが、人の生を表現しているんじゃないかと監督自身は思います。
―強く引き込まれるエピソードや、説明を抑えたゆったりしたリズム、イ・チャンドン監督の映画を思い出しました。
イ・チャンドン監督は尊敬する監督で、大学でイ・チャンドン監督についての講義も受けていたんですよ。人間のいろいろな姿を描き出している監督だと思います。日本の映画だと、西川美和監督も好きです。この映画を観てくださった方が、母娘とそれを取り巻く社会について、何かを考え直すきっかけになってくれたらうれしく思います。
映画『同じ下着を着るふたりの女』公式サイト (foggycinema.com)