#749 SKIPシティ国際Dシネマ映画祭

今年で20回目を迎えたSKIPシティ国際Dシネマ映画祭。

埼玉県 川口市にある映像施設SKIPシティの二つのホールを会場に行われる、デジタルシネマに特化した映画祭です。

地元である川口の方々はもちろん、特定の年齢に偏ることなく、毎年、様々な年齢層のお客さんが集い、川口駅から会場まで専用バスが出ていることもあって、遠方からも根強いファンが訪れます。

映画をデジタルで撮る、ということも、この20年でだいぶ定着してきた感がありますが、6月中旬に開催された映画祭の記者会見では、この20年にまつわるいろいろなお話が聞かれました。

まずは、映画祭の八木信忠総合プロデューサーのお話。

「思い返しますと、今年で20回目になるわけですが、当時はデジタルで少しずつ映画が作られた始めた頃。映写機も今ほど進化していませんでしたから、巨大なスクリーンに国際規格の明るさで映画を映して大丈夫なのか、いろいろ苦労した思い出があります。

デジタルシネマを振興するということで“Dシネマ”と冠することにしましたが、それでもフィルムの映画が応募作品として送られてきて、丁重にお返したエピソードも思い出されます。今はデジタルシネマが当たり前の時代になりました。時の流れは早いなと思うこの頃です」

そして土川勉ディレクターからは、こちらの映画祭をきっかけに現在、活躍している監督たちのお話が。

「2009年に白石和彌監督、石川慶監督、2010年に中野量太監督、上田慎一郎監督、2018年に片山慎三監督など、その後、日本映画の第一線で活躍する監督たちの(インディーズ時代の)作品を本映画祭で上映してまいりました。

今年の20回目は、本映画祭から輩出した監督たちをプロデューサーとして支えてくださいましたアスミック・エースの手島雅郎さんを国際コンペティションの審査員長として、そして出身監督の代表として中野量太監督国内コンペティショの審査員長として迎えられることを非常にうれしく思います」

豊島雅郎さん(右)と中野量太監督

そんな国際コンペティションの審査員長・手島雅郎さんは

「こちらの映画祭は以前から、普段は映画館では公開されないような国々の監督たちが集まり、それぞれの映画を観賞しあうというアットホームな映画祭だと感じていました。

それは20回積み重ねてきた関係者の方々のご尽力があってこそだと思います。デジタルシネマという新しい切口で映画祭をやられてきたということで、埼玉県・川口市の皆さんのご尽力に頭の下がる思いです」

地方自治体を母体として、コンペティション機能のある映画祭が20回続くというのは、なかなか貴重なことです。映画監督は、自分の作品を多くの人に、大きなスクリーンで観てもらう機会を求めているもの。海外の若手監督にもそれが知られていて、毎年、多くの応募作品が送られてきます。それについて、かつて自身も、そんな監督のひとりだった中野量太監督から、こんなお話がありました。

「僕自身は2012年に自主映画『チチを撮りに』で監督賞をいただいて、それがつながって、つながって、今があるという感じです。大げさでなく、この映画祭に映画監督の道を切り拓いていただいたといっても過言ではないと思っています。

『チチ~』を撮ったのは40歳手前で、この作品が映画界で見つけてもらえなかったら、もうやめようと思って応募しました。藁をも掴む思いで、どうか見つけてほしいと応募したのが12年前、その時のことを鮮明に覚えています。

なので、応募される皆さんの気持ちが痛いほどわかるし、審査員長ということで、責任を持ってやらないといけないなというのを痛いほど感じています。これで人生が変わる人もいるかもしれませんから。僕は、たったひとつのきっかけで、人生の方向性が変わるということは大いにありうると思っているので。

12年前から、ついにこんなところまで来てしまって、呼んでいただけて光栄だし、その分、応募してくださった皆さんの気持ちが一番わかる審査員だと思います。だからこそ、プロの壁を越えるには何が足りないかも、伸ばせば世界に通用する才能も、僕は一応わかっているつもりなので、そこをちゃんと審査して掬い取って、褒めてあげたいです。映画祭の一番の役割は褒めてあげることだと思うので。

やっぱり褒められないと、続かないです。僕は自主映画をやっていて、褒めてもらって、なんとかがんばって今があるので、基本は褒めてあげたい。プラス僕だけしかできないアドバイスができたらと思っています。新しい才能に出会うのが楽しみです。昔の自分を見るようで、もしかしたら泣いちゃうかもしれません」

そして、今年のオープニング作品『瞼の転校生』の藤田直哉監督もまた2020年にこちらの映画祭の短編部門で上映された『stay』が最優秀作品賞を受賞した監督。オープニング上映に際して、

「中野監督もおっしゃっていましたが、僕もこの映画祭に育てられたと言っても過言ではないと思っていて、『stay』の後も、文化庁の企画に、この映画祭に推薦していただいて、映画を撮らせてもらったり、縁の深い映画祭なので、映画祭の20周年、川口市の市政90周年の今年のオープニング作品として、ここに戻ってこられて、とても光栄です。

『瞼の転校生』は大衆演劇の役者である少年が転校してきて、また去っていくまでの1ヶ月のお話です。中学生の爽やかな青春を描いた作品になっています。川口市のいろいろなところで撮影させていただいたり、エキストラに実際の中学生に参加していただいたりして、いろいろな協力のもと完成した作品なので、劇場で皆さんに観ていただきたいです」

藤田直哉監督

先程の土川ディレクターからは、

「20回目の特集企画として、SKIPシティ同窓会を行います。本映画祭の参加を通過点に、現在、商業映画監督として活躍している監督たちに集まってもらい、皆さんの新作を上映すると共に、商業映画監督への軌跡を語ってもらう企画です。

また、今年の特色として、過去に上映された監督が、応募資格の範囲(国際コンペティションの場合、長編監督作が3本以下の監督で、2022~23年に完成した60分以上の作品)でまた応募してくれました。2018年に『家(うち)へ帰ろう』(映画祭上映時タイトル『ザ・ラスト・スーツ』)で観客賞を受賞したアルゼンチンのパブロ・ソラリス監督が今年、再度、応募して、『僕が見た夢』が上映されます。

国内コンペティションにもジャパン・プレミア(日本初上映)というハードルがあるにも関わらず、何人もの監督がまず最初の上映機会として本映画祭に応募してくれました。これもまたSKIPシティに集う別の同窓会かもしれません」

お話に出てきた『僕が見た夢』はもちろん、アゼルバイジャンの監督が手掛けた『バーヌ』、トルコの監督の『エフラートゥン』、シリアを舞台にした『この苗が育つ頃に』など、日頃、なかなか観る機会の少ない国々の作品が今年も上映されます。

ドキュメンタリーでは、グリーンランドの氷河の調査に同行する『イントゥ・ジ・アイス』や、今年のベルリン国際映画祭パノラマ部門で上映された『助産師たち』も気になるところ。

今年も、22日からオンラインでも観られます。いい作品でも、なかなか配給がつかない映画も多い昨今。ゲストも来場して、アフタートークも行われるこの機会に、楽しんではいかがでしょうか。

スクリーン上映 7月15日(土)~23日(日)

オンライン上映 7月22日(土)~26日(水)

公式サイト:https://www.skipcity-dcf.jp/