#695 第31回東京国際映画祭リポート vol.1

今年の10月25日から11月3日まで、東京・六本木ヒルズを中心に開催された東京国際映画祭。今回は、そのリポートをお届けしたいと思います。

リポートvol.1では、今年の東京国際映画祭を訪れた監督や俳優さん……ゲストのトークの模様をお送りしたいと思います。

題して、~映画祭を訪れたゲストたち~

どうぞお楽しみください。

まず、客席もプレスもたくさんの人が集まったのが、黒沢清監督の『CURE キュア』。日本映画の今を海外に向けて紹介する「JAPAN NOW」という部門で上映された「役所広司特集」の一環です。

なぜ役所さんが取り上げられたのかーー今回の「JAPAN NOW」のテーマは「アンビギュイティー(ambiguity)」。日本人のひとつの「らしさ」であるambiguity。それに一番ふさわしい俳優さんは誰かということで、役所広司さんに決まったそうです。このお話が出る前に『CURE』への起用理由を聞かれた黒沢監督が、まさに同じようなことをおっしゃっていました。

「役所さんはお客さんを呼べるスター俳優であるにも関わらず、映画に出てきた瞬間、この人物が何者なのかわからない。いい人かもしれないし、とんでもなく悪い人かもしれない。気が強いかもしれないし、弱いかもしれない。これだけ幅のある、未知の領域を含んだスターというのは、今でもほとんどいないんじゃないですか。その役所さんの未知な感じが、『CURE』の主人公にぴったりだったんです」

『CURE』で役所さんが演じるのは、殺人事件を追う刑事。普通の人に見えていた彼が、次第に狂気を帯びていく過程が、淡々とした日常の中、しかもワンカットの映像の中で写し取られていきます。日常が非日常に変わる瞬間を描き続ける黒沢監督ですが、やはり97年のこの作品が強烈に印象に残っている人も多いのではないでしょうか。

左から黒沢清監督、役所広司さん、司会のプログラム・ディレクター、安藤康平さん

そんな『CURE』の中で印象的なのが、ラスト近くの食堂のシーン。この場面、ウェイトレスが手にあるものを持っています。とてもさり気なく描かれていて、すぐ次のシーンに移るので、ぼーっと見ていたら気づかないかも……。

けれど、ココ、物語の上で重要なシーンなんです。実は、この場面、カットされた後も、撮影シーンが続いていたのだそう。

「あの後、ウェイトレスの女性が厨房に入っていって、上司らしき女性にある行動を起こすのです。実はそこまで撮影していたのですが、僕としては、そこまで描かなくても、彼女が手に持っているぐらいのところで、ぱっと(シーンを)切った方が暗示的でいいのではないかと思ったんですね」と黒沢監督。

映画のシーンをどこでカットするかは、とても大切なこと。そんなカットの妙について考えた時、思い浮かぶのが、今年、ヒットした『万引き家族』のラスト・シーンです。

同じく「JAPAN NOW」で上映された『万引き家族』の上映後に登場したリリー・フランキーさん。こちらのラスト・シーンについて話を振られると、「(少女の目が)何かを見ているなという、その余韻だけを感じてもらえたのが、よかったのかもしれないですね」。この映画、これ以上、語りすぎていないことが、とても大切という気がします。

この映画の中でリリーさんが演じているお父さん、なんともいえない味わいがありますが、是枝監督の中では『そして父になる』でリリーさんが演じたお父さん役の続編的な役なのだそう。

今回のお父さん役について、監督のリクエストはただひとつ、「最初から最後まで、見るべきところのないお父さんでいてください」だったそうです。「見事にいいところが、ひとつもないんです(笑)」とリリーさん。

「リリーさんの演技は、本当に何をしてくるかわからない。モンスターだと言われていましたよ」と司会の安藤康平さんから賛辞を送られると、「大丈夫ですか。これ、英語に訳したら、ただの悪口になりませんか」と同時通訳が入っていることも視野に入れ、笑いを誘う一幕も。

そんなトークで場が温まってきたところに「最後の質問です」と声がかかると、お客さんを気遣ったリリーさん、「せっかく早起きして来たんだから、もう少し話しましょうよ」と一言。拍手が起こり、会場が大いに盛り上がりました。

すると、客席から、こんな素敵な質問が。「最後の方に雪のシーンがあって効果的ですが、最初から雪のシーンを撮る予定だったんでしょうか」。リリーさんは「いい質問ですね」と受けた後、

「このシーンを撮影する前の日に雪が降っていて、普通の映画監督だったら、『明日、雪だから、撮影中止だな』になるんです。でも、是枝さんは嬉々としましたね、『うわ、雪だ!雪のシーン撮ろう』って。予想外の雪だったので、その日、是枝さんが書いた台本で撮影しました。

夫婦が家にいて、子どもたちが家に帰ってくるシーンも、どうかと思うぐらい雨が降っているんですけど、あれも天然の夕立なんです。監督が『夕立が来たから、よし!子どもたち、走ろう!』って。

雪や雨が降るというのは、普通の映画だったら、天候に恵まれないということになるのかもしれないけれど、是枝さんにとってはすごく天候に恵まれた映画になるんですよね」

是枝作品に息づく「子ども心」を思わせるお話。『万引き家族』のタイトルが、ずっと「声に出して呼んで」だったというお話も聞かれ、作品を思うと、胸に響きました。

映画祭 公式サイト:https://2018.tiff-jp.net/ja/

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映画のある生活
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2003年にスタートした~考える高校生のためのサイト~Mammo tvの連載コラム「映画のある生活」が、こちらのサイトにお引っ越ししました。