#694 第19回東京フィルメックス 

オープニング作品『川沿いのホテル』より

今年も東京フィルメックスの季節がやってきました。11月17日(土)に開会式が行われ、ディレクターの市山尚三さんの「開催が危ぶまれた時期もあり、皆さんにご心配をお掛けしたかと思いますが、こうして無事に初日を迎えまして、サポートしていただいた皆さんに感謝したいと思います」という挨拶で幕を開けました。

続いて、10本のコンペティション部門の作品を審査する審査員の紹介が。今年の審査員はイラストレーターのエドツワキさん、昨年のフィルメックスで『殺人者マルリナ』(17)がグランプリを受賞したインドネシアの監督、モーリー・スリヤさん、東京テアトル系の映画館の番組編成を担当する西澤彰弘さん、翌日からの参加となる韓国のジャーナリスト、ジーン・ノさん。

そして審査員長を務めるのが、名作『スモーク』(95)のウェイン・ワン監督。市山さんの「フィルメックスの行く末を心配してくれて、何でもするから言ってくれと言ってくださったので、審査員長をお願いしました」というご紹介に応え、ワン監督からは、

「昨年、友人がフィルメックスのことを教えてくれて、じゃあ1本ぐらい観てみようかなと行ってみたら、結局、会期中、1日に1本の映画を観ることになりました。アジア映画を紹介する非常に興味深い映画祭のひとつだと妻と話しました。開催が危ぶまれた時期もあり、とても心配しましたが、キノ・フィルムズの支援を受けて開催が決まり、市山さんから審査員長をお願いされて、とてもうれしかったです。今年も興味深い作品が揃っていて、観るのが楽しみです」

左から西澤彰弘さん、ウェイン・ワン監督、モーリー・スリヤ監督、エドツワキさん

その後、今年のオープニング作品であるホン・サンス監督の新作『川沿いのホテル』が上映されました。ホン・サンス監督は世界の映画祭で新作が待たれる韓国の映画監督。“韓国のゴダール”なんて言われたりもする監督です。

出演する俳優自身の状況を取り入れながら、ホン・サンス監督が撮影日の朝、その日撮影する分の脚本を書き、キャストに手渡すという独特の方法で撮影される作品には「これってアドリブ?」と思わせるような自然な会話が生きていて、そこに男と女のちょっとした揺らぎが軽やかに織り込まれている。名人芸みたいで、クセになって、ついつい観たくなるのです。

昨年、日本でも公開された『夜の浜辺でひとり』(17)で女優キム・ミニがベルリン国際映画祭の主演女優賞を受賞しましたが、彼女は近年のホン監督の多くの作品に出演するミューズ的存在。彼女の存在を得て、新たな息吹を感じさせるホン・サンス作品が、これまでと地続きの趣を感じさせながら、また新たな感慨をもたらすのが新作『川沿いのホテル』。ホン・サンス作品おなじみのキャストが演技とは思えない息づかいを見せ、何気ない日常のワンシーンなのに引きつけられます。

今回の登場人物は、川沿いのホテルに滞在する老齢の父親と、父に会いにホテルにやってきた兄弟、そして傷心の女性と彼女の先輩。さて、この5人、どんな結びつきを見せるのでしょうかーー。たゆたうような間合いが、心地いいです。

上映後には、父親役を演じ、ホン・サンス監督作品の常連でもあるキ・ジュポンさんがステージに登場。キ・ジュポンさんは、この作品でロカルノ国際映画祭の主演男優賞を受賞しました。「こんなに歓迎していただいて、本当にいい気分です」と上の写真の笑顔。

「昨年は私にとって、ちょっと辛い時期だったんです。そんな私に映画を撮りましょうと手を差し伸べてくださったのがホン・サンス監督でした。先に『草の葉』を撮って、それが『川沿いのホテル』につながりました。『草の葉』は昨秋に3日間で撮影して、その後、追加のシーンを1日で撮影しました。(その後、翌年2月のベルリン国際映画祭で上映するという異例のスピード!)日本の映画館に来るのは、これが初めて。私の人生に素敵なご縁をいただきました」

キ・ジュポンさんのお話に出てきた『草の葉』も今回のフィルメックスで上映されます。カフェの一角で起きている男女の会話に始まり、様々な人たちの「会話」が名人芸のようにつながっていく、ホン・サンス監督ならではの作品。『川沿いのホテル』(下の写真)は21日に、『草の葉』は20日にもう一度、上映されます。

 

『草の葉』より キム・ミニさんのワンシーン

ホン・サンス監督のほかにも、今年もフィルメックス常連の監督の作品が。24日(土)にはジャ・ジャンクー監督の新作『アッシュ・イズ・ピュアレスト・ホワイト』、25日(日)にはツァイ・ミンリャン監督の新作『あなたの顔』が上映されます。

コンペ部門では、カンヌ国際映画祭で最優秀女優賞を受賞した『アイカ』やロカルノ国際映画祭の金豹賞(最高賞)を受賞した『幻土』など海外の映画祭で注目された作品が。日本からは是枝裕和監督の映画で助監督を務めていた広瀬奈々子監督のデビュー作『夜明け』が上映されます。そして特集上映は、西島秀俊さん主演の『CUT』(11)でも知られるイランのアミール・ナデリ監督の新旧4作品が。映画祭は情報を入れず、まっさらな状態で映画を楽しめる貴重な機会。皆さんの心の1本に出会ってください。

25日(土)まで、有楽町朝日ホールほかにて開催。

公式サイト:https://filmex.jp/2018/

TEXT:HIROKO TAGAYA

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2003年にスタートした~考える高校生のためのサイト~Mammo tvの連載コラム「映画のある生活」が、こちらのサイトにお引っ越ししました。