前回、今年の東京国際映画祭で、力強い女性たちを描いた作品が目立ったことをご紹介しましたが、今年の東京フィルメックスにおいても、そんな作品に出会いました。
『見えるもの、見えざるもの』(17)が第18回東京フィルメックスで最優秀作品賞に輝いたカミラ・アンディニ監督の最新作『ユニ』(21)です。
『見えるもの、見えざるもの』については、以前、こちらでもカミラ監督にインタビューしていますが、
やはり、今回の作品も、自身の見つめる世界に嘘をつかない等身大のカミラ監督の作家性を感じさせます。
東京国際映画祭の「アジア交流ラウンジ」にも登壇したカミラ監督(その時の動画が後日、公開されます。詳しくは、こちら)。上映後のQ&Aに登壇しました。
「『見えるもの、見えざるもの』でこちらの会場に来た時のことが思い出されます。また、フィルメックスに戻ってこられて、うれしく思います」
今回、上映された『ユニ』。タイトルのユニとは、高校の最終学年に通う主人公の女の子の名前。日本の女の子のたちと同じようにSNSも使えば、友達と遊んだりもする。将来の可能性も感じていて、大学にも進学したいと思っている。
けれど、日本の女の子と決定的に違うのは、本人の意志とは離れたところで、10代にして社会から結婚を迫られること。インドネシアのムスリム社会における、そうした現実に直面するユニの葛藤が、大きく構えることなく、繊細な表現で、自然にみずみずしく描かれています。
「この映画のことは2017年に『見えるもの見えざるもの』を撮り終えた時に、思いつきました。というのも、私の家で働くメイドの女性が村に帰りたいと言うんですね。娘さんが17歳で妊娠していて心配だというのです。
なぜ、そんなに若くして結婚したのかを訪ねたら、この映画で描かれているように、娘さんのところに婚姻の申し出が続いて、結婚が決まったと。たしかに私が10代の頃も、その若さで結婚する人がいたんですね。
長い間、私の頭の中に、ずっとそのことがあって。今回のプロデューサーは私の夫ですが、彼に3作目でこのテーマを描きたいと話しました」
映画には、そうした社会の要請に抗おうとする10代のユニの恋や性が描かれます。
「こうした映画をインドネシアで製作するというのは、かなり困難なことは予想がつきました。最初は劇場公開ができるかもわからないと思っていましたから。
でも、プロデューサーには、とにかく正直に私が思うことを撮りたいと伝えました。それには一緒に組む人たちを慎重に選ぶ必要がありました。勇気を持って発信すべき内容に賛同してくれる人を選ばなければならないなと。
いろいろ困難はありましたが、組んでくれた人たちも、最終的にこの作品のことを信じて、インドネシアの若い女性に届く作品にしたいと言ってくれました。
インドネシアでは10代の映画はたくさんありますが、そこに描かれるほとんどは都市部の女の子たちです。実際に多くの女の子は、ユニのように都会ではない地方の村のような環境に住んでいるわけです。
そういった若者たちの声を代弁する作品にしたいと思いました。おかげさまで公開も12月に決まり、検閲も無事に通ったので、今は解放感に満ちた気持ちです」
ユニは紫色の好きな大人っぽい女の子。演じたアラウィンダ・キラナが魅力的です。
「彼女は映画で演技するのが初めてなんです。映画のテーマとして、地元の人が演じるには物議を醸す危険性がありましたから、ユニ役はジャカルタでキャスティングしようと思いました。
でも、ファンの多い女優さんもそのあたりが難しい。結果的に、私のアシスタントが、彼女のことをインスタグラムで見つけたんです。
実際に会ってみたら、勇気があって、私のビジョンを理解してくれて、この映画のテーマにも自分の意見を持っている、とても知的な女性でした。
当時18歳でしたが、こうしたチャレンジもいとわない、他の人とも違うものを持っているなと感じました。ユニと彼女は置かれた境遇が違うので、ワークショップをして役に入ってもらったのです。
ちなみに、ユニが紫色が好きなのは、私の学生時代にそういう女の子がいたから。インドネシアの10代の女の子は、よく自分のテーマカラーを決めていたりするのです」
そんな、ごく普通の女の子の感覚が、大きく見せるでもなく、ありのまま正直に描かれているところが、魅力的な作品。カミラ監督だから撮れるものを、撮っているところがいい。
興味深いのは、前作『見えるもの、見えざるもの』と作風が大きく違うこと。
「私にとっては、作品は子どものような存在なんですね。生まれてきて、どんな子に育つかは、私自身もわからない。どんな作品になるのかを模索しながら、どう育っていくのかな、どんな人になるのかなと見届けるような感覚です。
私の製作プロセスにおいては、前作も今回もそうですが、自分の中を深く見つめ、キャラクターについて熟考しながら、何が私に響いて、訴えかけてくるのかを見極めて、作品ができあがっていく。プロセスは同じでも、結果的に生まれる作品は違うものになるのです」
『見えるもの、見えざるもの』は幻想的な物語。一方、今回はよりリアルでナチュラルなタッチで描かれています。
「ストーリーによって、作品が求めるスタイルが違うんですね。前作はよりファンタジックな作品で、自由な発想を大切に、対話よりも動きで表現するというスタイルになりました。
闇と光の関係性も大切な要素でしたし、全体的にゆっくりとしたリズムである必要があったわけです。時の流れや動き、呼吸、そういうことを扱う作品でしたからです。
それに対して、『ユニ』は社会を描いています。これは現実の問題なんだということを観客の皆さんに感じてほしい。ユニたちが日々どんなことをして、どんなことを考えているかをリアルに受け取ってもらいたい。
皆さんの周りにいるような普通の女の子なんだよということを伝えたくて、こうしたスタイルの作品になりました」
自分の意志で、将来を選ぶ。それが当たり前ではない状況に置かれた女の子の物語。自由を求めて闘う彼女の清々しさが、東京国際映画祭で挙げた作品とともに印象に残りました。
第22回東京フィルメックス 公式サイト:https://filmex.jp/2021/