#773 カミング・ホーム マーク・タートルトーブ監督インタビュー

3月20日(金)に公開される映画『カミング・ホーム』。

孫娘とおじいちゃんがいとおしい『リトル・ミス・サンシャイン』のプロデューサー、マーク・タートルトーブさんが監督した作品です。

主な登場人物は、70代後半のおとな世代、3人組。ご近所に住むミルトン、サンディディ、ジョイス。 まず、こちらがミルトン。

演じるのはベン・キングズレ―。写真は冒頭の町の集まりのシーン。ペンシルベニアの小さな町に暮らすミルトンは、きちんと町の議会に出席するタイプ。今日も町を想い、熱心に意見を出します。

そんなミルトンをちょっと心配そうに見守るのが、同じ町に住むサンディとジョイス。二人がこちら。

ご近所どうしの3人は、それぞれ一人暮らし。ミルトンの娘さんは、最近ちょっともの忘れが増えたお父さんのことを心配しています。そんな折……

なんと!

ミルトンの庭に、宇宙船が不時着!

しかも、こんな……漫画みたいなUFOが……。

UFOのそばに、宇宙人ぽい宇宙人が宇宙人ぽく倒れているのを見て、唖然とするミルトン。

人生の最後に訪れた、まさかの「未知との遭遇」(スピルバーグの若い頃の作品、若い世代の方はご存じでしょうか?)。

おじいちゃん、おばあちゃんと呼ばれてもおかしくない3人が(そうは描いていないところも、この映画のよいところだと思います)『アベンジャーズ』みたいに見えるシーンもある、まさかの宇宙モノ!?

芯にヒューマンドラマをしっかりと抱えながら、ゆるめのユーモアでそれを包み込んだ『カミング・ホーム』。マーク・タートルトーブ監督にリモートでお話を伺いましたので、その模様をお届けします。

―ミルトン、サンディ、ジョイスが抱えている孤独はシリアスなのに、それを包んでいる SFの遊びとユーモアが温かいです。最初にキャビン・ステクラ―さんの脚本を読まれたときのこと、伺えますか?

すごく深みがあるのに、あからさまにいいことを言っている感じじゃないところがいいなと思いました。笑わせるのに、その中に深淵なものがにじみ出てくるようで。本当にすばらしい脚本ですよね、ユーモアに溢れていて。

―実際に撮られて、いかがでした?

やっぱり撮っていても面白かったです(笑)。ただ、笑ってしまうようなシーンでも、キャスト皆さんには「真顔で演じてください」とお願しました。ある人がリンゴを食べている場面なんて……(笑)。可笑しいですよね。でも、面白くしようとしなくても、ちゃんと面白さがにじみでる脚本なので、それに任せてくださいとお伝えしました。面白いといっても、なんかこう味わい深いというか、じわ~っと笑ってしまうところがありますよね。

―真顔で演じるとおっしゃいましたけれど、そのシュールな可笑しさがたまらなかったです。

そうなんですよね(笑)。リンゴのシーンで、ミルトンとサンディが向き合って喋っているところがあるのですが、よく見ると、ちょっと笑いそうになっているベン・キングズレ―が映ってるんですよ。なんとかこらえて真顔で演じてくれましたけれど、そこだけちょっとあぶなかったですね(笑)。

―同じ町に住む3人がいて、ある日、ミルトンの庭に宇宙船が不時着する、というまさかのSF!?みたいな展開になります。後半で久しぶりにUFOが出てくるところなんて、3人を『アベンジャーズ』みたいに撮っていて思わず笑ってしまいました。

ベン・キングズレーさんが庭のUFOを前に「また植物が生えてくるまで何年もかかるよ」って普通のグチを言っているところもいいですよね(笑)。笑ってしまうところは本当にたくさんあって、そこは僕の演出というより、本当に脚本とキャストの皆さんのおかげです。

―監督のお人柄もあって、こういう楽しい映画になってると思うのですが。

どうでしょうね、ただ妻にはよく「変な人だからね、あなたは」って言われます(笑)。

―後半で予想外の展開になりますが、終盤でUFOが不時着した場所がちょっと砂漠みたいで、『スターウォーズ』の第一作を思い出しました。

それ、面白いですね。僕自身は意識していなかったけれど、宇宙人が住む他の惑星みたいな感じで。あのシーンは採石場で撮ったんです。裏庭から90マイルほど離れたところなのですが、あのUFO、解体できるんですよ。6~8ピースぐらいになるので、裏庭でバラバラにして、採石場で組み立てて、UFOのシーンは1日で撮りました。

― UFOが立派すぎないところがいいですね。
宇宙人がちょっと人間ぽいところも好きです(笑)。

そうなんです(笑)。そこは大事にしました。壮大なCGを使うのではなく、ローテクでやろうと。宇宙人は、あくまで人間ぽさを失わずに、ということがポイントでした。たまたま肌が銀色であるだけで(笑)。宇宙人のジュールスは特殊メイクをした俳優が演じていますが、見ていくうちに俳優が演じていることを忘れるんですよね。 ジェード・コーンさん、すばらしかったですね。

―どうやってキャスティングされたんですか?

ジュールス役は11人の方をオーディションして、彼女は最初にお会いした方なんです。映画の中でジュールスは一切話をしないでしょう。けれど、多くを語る役なんですよね。

―サンディやジョイスが、ジュールスは何も話さないのに、ちゃんと話を聞いてくれている感じがするって言うのが、ちょっと感動的です。シュールなユーモアの中に、3人とジュールスの絆がじんわり沁みます。

そうなんですよね。何も言わないけれど多くを語るって、すごく難しい役だと思うのですが、オーディションの時、こちらの台詞に対する彼女のリアクションがすごくよくて。ただ、ちょっと背が高すぎたのです。なので一度、お断りしたんですよ。でも、どうにも気になって、彼女にお願いしました。名演を見せてくれましたね。

―ところで、ミルトンと娘さんの関係。物忘れが増えてきた年輩の父親を心配するあまり、つい態度がシリアスになってしまう……よくあることだと思います。そこにユーモアを思い出させてくれる映画でもあるなと思いました。

そうやって映画を日常生活に持ち帰ってもらえるのは、うれしいですね。ベン・キングズレーも同じことを言っていました。お芝居していて、自分の娘であるような感覚になるって。

―年齢を重ねたからわかる3人の感情は実はシリアスなのに、それをこれだけ笑いで包んで描いた映画、あまりないと思います。監督がお好きなユーモアの映画を伺ってもいいですか?

素敵な質問をありがとうございます、と言いながら、浮かんでくるかなぁ……こういう質問、いつもインタビューが終わる頃に思い出すんですよ(笑)。いいなぁ……と思う映画は、本当にいっぱいあるんですよね。ただ、それが必ずしもユーモアがある映画かというと、そうではないことも多くて。

―そういうご意見も、よく伺います。好きな映画と作る映画が違うって興味深いです。最近ご覧になられた映画でよかった作品は?

昨年、観たイーサン・ホークの『ブルームーン』も美しい映画だなと思いました。目の離せない演技ですよね、見事に役になりきっていて。メッセージ性があって、かつユーモアもあって、というと、浮かんでくるのは『リトル・ミス・サンシャイン』なんですよね、自分がプロデュースした作品だけど(笑)。

―日本でも話題になりました。

なかなか珍しい奇特な作品なんじゃないかと思います。そういう脚本はなかなかないので、これだ!と思ったら、つかむしかない。ということで、つかんでプロデュースした作品でした。もうひとつ、『カミング・ホーム』と似たテーマの作品だと、サラ・ポーリーの『アウェイ・フロム・ハー 君を想う』もいいですよね。あと、ごめんなさい、僕がプロデュースした作品ですが、ユーモアかつしっかりしたメッセージ性のある作品だと『僕の大事なコレクション(原題:Everything is illuminated)』も浮かぶかな……。即答できなくて、ごめんなさい。

―今回の『カミング・ホーム』もですが、本当に他にはない作品ですね。マークさんはアルゼンチンが舞台の名作『パズル』のリメイクも撮られていますよね。長年、プロデュースをされてきて、監督をはじめられた初期の作品です。

先ほどの話のつづきになりますが、『パズル』もコメディではないけれど、ユーモアがありますよね。サンダンス映画祭で上映したとき、脚本家と一緒に客席で観ていたのですが、みんな笑うんですよね。脚本家が僕の方を見て、「コメディを書いた覚えはないんだけどな」って。「でも、ユーモアがあるよね」と返した覚えがあります。

映画のユーモアって、キャラクターの本質が醸し出していくものなんですよね。それが脚本がすばらしいということの証でもあるのだと思います。ユーモアはプロットから、特定の状況にいるキャラクターがどういう行動を起こすか、そこから出てくるものだと思う。それがいい脚本ということだと思うんです。

―長年、たくさんの脚本の中から、これだ!と思うものを見つけて映画化されてきたマークさんですが、監督をされるようになったのは?

長年プロデューサーをやりながら思っていたことなのですが、プロデューサーが仕事する相手は、往々にしてたったひとりなんです。監督とじっくり付き合って、監督を介して作品を作っていく作業なんですね。僕はたくさんの人と関わりながらものを作っていくのが好きな性格なので、それができる映画監督はやってみたいな……と思っていたんです。役者さんやカメラマンや美術さん、いろいろな人と一緒に映画を作りたいなと思って、少しずつ短編を撮りためて、そこから監督をするようになりました。

マーク・タートルトーブ監督 ©Amy Gallatin Photography, all rights reserved.

マーク・タートルトーブという名前を知らなくても、いい映画だなと思って、プロデューサーを確認すると、マークさんだったということは本当に多い。

先のアカデミー賞で外国語映画賞に輝いた『センチメンタル・バリュー』のヨアキム・トリアー監督とも『母の残像』で組んでいる。映画はどうしても監督が注目されがちですが、優秀なプロデューサーあっての映画ということで、改めてそのプロデュース作品を観なおしてみるのも面白いと思います。今後の監督作も楽しみです。

取材・文:多賀谷浩子

公式サイト:https://cominghome-movie.com/index.html

3月20日(金)よりシネマート新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開

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