3月14日~27日まで新宿ケイズシネマにて開催中の第2回モンゴル映画祭。
近年、こちらの映画がカンヌ映画祭で上映されるなど、海外の映画祭でも注目を浴びているモンゴル映画。民主化から約30年、ジャンルも豊かにその勢いを感じさせます。
昨年から開催されているモンゴル映画祭ですが、今年もモンゴル映画を牽引する監督たちの興味深い作品が上映されました。そのうち、2本の作品が上映されたのが、ビャンバ・ザヒャ監督。

作家でもあり、ドキュメンタリーも手掛けるビャンバ監督ですが、今回は自身のキャリアの中の2本の劇映画が合わせて上映されます。
主人公は、いずれも内向的な青年。
アパートの屋上に暮らす青年が、巨大なマンションの窓を眺めるうち、一室に暮らす人物にシンパシーを感じ、入手したリモコンで、その家のテレビのチャンネルを変えようと試みる『リモート・コントロール』。
そして、ベッドの上のひきこもり生活を自ら選択した26歳の青年が、その家族、恋人との関係の中で変化していく心の旅路を描いた『Bedridden~引きこもりを選んだ男』。
いずれも主人公とその周囲の人たちを通して、今のモンゴルが浮かび上がってくる作品です。冒頭でも触れましたが、民主化して30年以上が経ったモンゴル。都市化も進み、核家族化も進み、今の日本と同じようなコミュニケーションの問題が起きていることが、こちらの2本からも見受けられます。新作である『Bedridden』について伺ってみると、
「この映画には原作があって、短かい小説ですが、大きな意味と内容の広がりを持った作品なんです。アヨルザナという作家の作品で、モンゴルのポストモダン小説なのですが、2002年に出版されて、ずっと映画化したいと思っていました。描かれているのは、私たちのコミュニケーション、そして男女の分かり合えなさ。うまくいかないことは運命なのかもしれない。でも、原作で描かれているその部分を僕は個人の選択の物語として描きました」

商業映画以外の制作資金を集めるのが難しい状況は、日本と似ているようで「2002年の出版から、ずっと映画化を構想していましたが、資金面が難しくて。おかげさまで、2017年のカンヌ映画祭の企画に応募して、幸い映画を撮ることができました。その間15年。僕も年をとってしまいました(笑)」
映画祭というと華やかなレッドカーペットが思い浮かぶ方も多いと思いますが、新人発掘もその大切な役割。それぞれの映画祭が、そうした機能を備えています。ザヒャ監督がおっしゃるカンヌ映画祭の企画というのが、こちら。
冒頭でご紹介した『冬眠さえ~』も、東京フィルメックスの新人発掘「タレンツ・トーキョー」から生まれた作品。東京国際映画祭もマーケットのTIFFCOMでピッチングコンテストが行われています。これから映画を撮ることを考えている若い皆さんは、こうしたところにも注目されてはいかがでしょうか。

さて、話をザヒャ監督の映画に戻しますが、『リモート・コントロール』そして『Bedridden』。どちらの作品も、青年たちの置かれた環境はハードです。けれど、それを見つめる監督のまなざしが温かい。希望があります。
「希望なしに、人生は生きていけませんから。『Bedriden』の主人公も原作ではもっと悲しい最後を遂げるのですが、この映画では、未来に希望を持たせたいと思いました」
モスクワのThe Russian State University of Cinematography (VGIK) を卒業後、撮影監督としてキャリアをスタートしたザヒャ監督。それだけに映像が美しい。特に『Bedriden』よりも屋外シーンの多い『リモート・コントロール』は、モンゴルの風景を切り取るカットの美しさが印象的です。
「映画のカメラマンにはなりましたけれど、自分が監督になることは考えていませんでした。劇映画としては、この2本を撮りましたけれど、モンゴルの社会は民主化後、ずいぶん変化しましたから、その中で若者の在り方も変化しているのです。彼らが何を感じて、何を考えて、何を求めているのか。映画を撮ることで、それを発見していきたいんですね」
それゆえ、主人公として描くのは27~30歳の青年になることが多いのだといいます。今、仕上げ作業に入っているという新作もコロナの時期が舞台。より狭い場所にいる人物にフォーカスする物語だそうで、より内向きな視点から、今のモンゴルを見せてくれそうです。
映画を学んでいた大学ゆえ、タルコフスキーの影響を受けているという監督ですが、他にお好きな監督を伺ってみると「本当にたくさんいますが、ラース・フォン・トリュアーのように、自分には撮れない映画を観ると、やはりすごいなと思いますね」
来年も、その新作を携えて、来日してくださるかもしれません。他にも今年は2年前に劇場公開された『セールスガールの考現学』のセンゲドルジ・ジャンチブドルジ監督の新作『サイレント・シティ・ドライバー』(すでに大阪アジアン映画祭でご覧になられた方も多いかもしれません)が上映され、こちらの2作品をセンゲドルジ監督と制作しているナランツェツェグさんも来日。

会場からも『サイレント・シティ・ドライバー』のモンゴルの女性が置かれた社会的状況について質問が出ましたが、『セールスガールの考現学』にも、こちらの作品にも、そうした問題提起が込められているところには彼女の存在もあるようです。
ちなみに、ナランツェツェグは日本語に訳すと「太陽の花」。モンゴルの人たちのお名前、意味を知るとさらに素敵です。
モンゴル映画祭:https://mongolianfilmfest.com/
